米国不動産は買い時到来か

平林 昇

平林 昇

国内外の不動産投資市場で20年近くの経験を有する。前職はダイヤモンド・リアルティ・マネジメント(株)に籍を置き、三菱商事の国内外事業投資先への出向を通じて、不動産投資及び不動産投資運用業務に従事する。直近は米国ロサンゼルスに拠点を置くDiamond Realty Management Americaにてマネージングディレクターとして約5年間にわたり新規エクイティ及びデットファンド組成に取り組む。それ以前はGEキャピタル・リアルエステートにて第三者資金を活用した共同投資プログラム組成業務にも関わった経験を有する。
 2022年7月より現職。インベストメントバンキング部門にて国内外投資家への各種アドバイザリー業務を統括。慶應義塾大学経済学部卒。


過去数年、米連邦準備制度理事会(FRB)による厳しい利上げを経験してきた米国不動産業界。新型コロナの影響も相まって苦しい状況が続いていますが、ここにきていよいよ大底が見えてきた感もあります。日本の投資家も注目している米国不動産について、CBREシニアディレクター、インベストメントバンキング統括の平林昇さんにお話を伺いました。

金利と実需の動向に注目

米国の不動産市況を考えるうえで見るべき大きなポイントは2つ。金利と実需の動向です。まず金利ですが、ご存じのようにFRBが2022〜23年にかけて大幅な利上げを行ったことは、不動産取引の激減を招きました。

米国の政策金利(FFレート)の誘導目標の推移

この大幅な利上げにより、不動産の運用利回りと金融機関からの調達金利の差が縮まり、一部のアセットでは逆転も発生しました。

不動産取引の大半を占める機関投資家は借り入れを行い、レバレッジを利かせて不動産投資を行います。そのような買い手は、今の高い金利水準では身動きが取れません。こうして大手がなりを潜める一方、借り入れをしない(=金利の影響を受けない)キャッシュでの買い手が旺盛に物件を買っています。ただ、キャッシュとなるとやはり、あまり規模は大きくない印象です。

また、3大アセットタイプであるオフィス、住宅、物流に分けて実需を見てみると、オフィスは新型コロナのパンデミックは収まったものの、ハイブリッドワークが定着したことで需要が戻っておらず、価格は大幅に下落傾向にあります。一方、住宅と物流については、こちらも金利高の影響で価格は下落傾向にありますが限定的です。しかし、需要は堅調です。

最悪期を乗り越えるタイミング

FRBによる利上げは23年7月が最後となっており、24年は利下げが予想されています。目下、米国の雇用や物価が強いため、利下げスケジュールは後ろ倒し気味だと言われていますが、この先のさらなる利上げは、ほぼないと思います。

つまり、金利は今がピーク水準だということで、不動産にとっても実需が堅調なセクターは足元が最悪期。この先はいよいよ、回復局面に軸足を移す時期が来ると考えています。そして、不動産投資は、この底のタイミングで良い買い物をできるかどうかで勝負が決まります。

日本企業の動きの変化と米国の不動産取引市場の現状

空前の円安ですから、日本の投資家にとっては、海外資産を買いにくいタイミングとも言えるのですが、それでも日本の投資家の方々からの、米国の不動産に関するお問い合わせは活発化しています。運用投資よりは、米国で不動産事業を拡大したいというニーズが多いように思います。

確かに円安は逆風ではありますが、本格的に米国でビジネス展開をしていくのなら、この先物件を売却しても円に転換せず、そのまま再投資すれば為替リスクは気にしなくて良い。そう考える投資家もいらっしゃいます。

一方、機関投資家の方がシビアです。やはり為替ヘッジをかける必要があるケースも多く、そうなると5〜6%もコストがかかってしまいます。物件の利回りが吹き飛んでしまうようなレベルですから、投資しにくいのです。

価格が安いというほかにも、日本の投資家にとって米国の不動産が魅力的に映るポイントがあります。それは、競合が少ない状況では、検討期間が比較的長めに確保できるため、米国市場に不慣れでもやりやすいという点です。米国の不動産の取引スピードは非常に早く、すぐに意思決定しないと物件の確保ができないのが通常です。日本人は言葉や商習慣の違いもありますから、以前はこのスピードについていけず、チャンスを逃すケースがよくありましたが、今なら取引しやすい状況になっています。

不動産の有効活用について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2024年7月19日時点の内容となります。
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