定年延長のメリットと準備すべきことは?

人生100年時代を迎え、企業にとっても長寿化を見据えた雇用制度への取り組みが求められています。
従来、65歳までの雇用確保措置が求められていますが(2025年4月から完全義務化)、今般、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)が改正され、2021年4月から、70歳までの就業確保措置も努力義務となりました。(※1)あくまでも努力を促すものとはいえ、生産年齢人口(15-64歳)の減少により労働力不足が懸念され、社会全体の定年が引き上げられることは十分予想されます。
定年延長はベテラン従業員が持つノウハウを長く活用できるメリットがありますが、高年齢従業員に対応した賃金制度や就業規則になっているかなど、確認すべきポイントや注意事項もあります。これらの点を見ていきましょう。

優秀で安定した労働力を確保

企業にとって定年延長の最大のメリットは、優秀で安定した労働力の確保につきます。専門知識や社内の仕組み、企業風土を熟知した従業員を引き続き雇用するため、人材育成にかかる時間や費用を抑えられます。
従業員としても段階的に引き上げられている年金支給年齢まで、安定した収入が確保できる安心感は大きいでしょう。社会に参加している実感や生きがいにつながる点もプラスです。

賃金制度や退職金制度の再検討が必要

改正高年齢者雇用安定法では、就業確保の方法として、以下の5つの選択肢のいずれかを実施するとされています。

  • 70歳までの「定年引き上げ」
  • 従業員の希望により、70歳まで引き続き雇用を確保する「継続雇用(再雇用)制度の導入」
  • 従業員に可能な限り長く働いてもらう「定年制の廃止」
  • 70歳までの継続的な「業務委託契約の締結」
  • 自社や自社が委託出資などをする団体で70歳まで継続的に社会貢献事業に従事できる制度の導入

実施にあたり、企業側で準備すべき項目がありますので、抜けのないように整備しましょう。

1. 雇用契約

定年を引き上げる場合は従業員の労働条件を変更しないことが多く、雇用契約を結び直す必要はありません。ただし、再雇用制度により労働条件が変わるなら雇用契約を改めて締結しますので、雇用契約書と労働条件通知書を再作成しましょう。

2. 就業規則

就業規則には定年や退職金制度、賃金制度等に関する項目の記載が義務付けられています。従って定年延長時には、就業規則を変更し、労働基準監督署へ届け出ます。

3. 早期退職制度

従業員自身が退職時期を選べる選択定年制度を設けているなら確認が必要です。選択定年制度は最低勤続年数や適用開始年齢を定めていることが一般的なため、定年延長により条件を変更するか否か検討しましょう。

4. 賃金制度

賃金制度は全従業員が納得できる制度に見直すことが望ましいとされています。これまでと同じ制度を維持するのか、高年齢従業員に適用する新たな制度を設けるのか、企業の環境や方針に合った制度変更を考えましょう。

5. 退職金制度

いつまで積み立てるか、いつ支払うかを再検討しないといけません。従業員一人一人の希望や状況に応じて選択できるのがベストですが、制度が複雑なため税理士や弁護士など専門家のアドバイスを受けましょう。制度がない企業であればこれを機に、高年齢従業員の生活を後押しする企業年金の導入を考えてはいかがでしょうか。

モチベーションを上げ、組織を活性化させる人事戦略がカギ

定年延長には人件費の増加や組織の若返りが進まない、若手が萎縮するといった懸念もあります。そこで、高年齢従業員は経験に応じた業務を与え、担ってほしい役割と期待を明確に伝えましょう。ただ業務をこなしているのではなく、高いモチベーションを持って能力を発揮する姿は、現役世代に必ず好影響を与えます。

また企業は定年延長のメリットを十分理解し、自社に合う多様な働き方の選択肢を提示できるよう準備すべきです。高年齢従業員の活用を考えることに留まらず、全従業員の活性化や企業の生産性を最大化できる人事戦略を立てていきましょう。早いうちに外部のコンサルタントや専門家に相談してみるのがいいかもしれません。

(※1)厚生労働省「70歳までの就業機会確保(改正高年齢者雇用安定法)」

【該当するSDGs目標】

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年3月10日時点の内容となります。
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