副業したい!と従業員に言われたらどうする?

老後資金が2000万円必要という説や、NISAの投資上限引き上げや制度の恒久化検討など、貯蓄の必要性が高まる一方、物価は上がり続けているため、いかに所得を上げて貯蓄に回すかということは現役世代にとっての悩みの種。そのような状況の中、副業に挑戦する人も増えているようです。

副業を認めるとどのようなことが起きるのか?

副業に対してのハードルが低くなってきている昨今、会社として副業を認めた場合にはどのような影響があるのでしょうか。
厚生労働省による「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(※1)を参考にしながら影響を考えてみましょう。

従業員が受ける良い影響

なんと言っても所得が増加することは大きな影響と言えるでしょう。
また、本業の所得をベースにして自分がやりたいことに挑戦することもできます。例えば、将来の起業・転職に向け本業を続けながら準備することで、リスクを最小限に留めることが可能です。転職せずともキャリアアップを図れることは、副業をしたい従業員にとっての最大の魅力だと考えられます。

会社が受ける良い影響

副業を通じ、従業員の自律性や自主性を育てることができます。
さらに、従業員が社内では得られない知識やスキルを得たり、従業員を通じて社外から新たな知識・情報や人脈を獲得することは、会社の事業機会拡大にもつながるでしょう。また、副業が可能な環境を求める優秀な人材を確保、あるいは流出を防止できる可能性もあります。

上記のように、従業員の自主的なスキルアップにより会社として競争力を上げられることが、副業を認めた場合の利点です。一方で、副業可とするにあたり従業員自身が留意すべきことや、会社として対応必須な事項もあるため注意が必要です。

従業員が留意すべきこと

副業と本業を合わせると就業時間が長くなる可能性もあるため、従業員自身で就業時間や健康の管理を意識することが大切です。
また担当業務に専念する「職務専念義務」(※2)業務上の機密事項を外部に漏らしてはならない「秘密保持義務」競合となる会社の業務等への就業を避ける「競業避止義務」は副業をしない場合にも従業員に課せられますが、副業をする場合にはより注意が必要になります。
さらに一週間の所定労働時間が短い業務のみを複数行うケースでは、雇用保険等の適用がない場合があることも留意すべきです。

(※2)「職務専念義務」は、国家公務員法 第96条及び 地方公務員法 第35条に記載があるが、会社員など民間企業の従業員の場合について明記した法律は存在しない。しかし一般的に企業と従業員が雇用契約を結んだ場合、慣例として当然発生する義務とされる。

会社として対応すべきこと

従業員が副業を行った場合、従業員の労働時間は通算されるため、労働基準法に定められている法定労働時間を超えてしまい、割増賃金を支払わなければならない可能性があります。一般的には、後から雇用した使用者に支払い義務があるとされますが、通算した所定労働時間がすでに法定労働時間に達しているにもかかわらず労働時間を延長した場合等、一定の場合には、先に雇用した使用者であったとしても、割増賃金を支払わなければなりませんので、注意が必要です。
また、労働契約法第5条により使用者には安全配慮義務が課されていますので、会社として、従業員が健康を損なわないような健康管理は欠かせません。
さらに、従業員による職務専念義務違反、秘密保持義務違反、競業避止義務違反というリスクへの対応も求められます。労使間の無用なトラブルを生まないためにも雇用契約書や就業規則を整えておきたいものです。

副業を制限する場合の対応

従業員の労働時間外は自由であるため、会社としては副業や兼業を認める方向で検討することが求められます。しかし、労務提供上の支障がある場合・業務上の秘密が漏洩する場合・競業により自社の利益が害される場合・自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合など、会社や本業に支障を及ぼす場合には副業の制限が許される場合もあります。

もし副業の制限が必要な場合には就業規則で規定しましょう。
就業規則については厚生労働省のサイトにモデル就業規則(※3)が掲載されており、副業・兼業についても章が設けられています。
また、こちらのコラムもご参照ください。
「働き方改革の前に要確認!就業規則を変更するには?」

以上のように会社側として留意しなければならない点はあるものの、収入を増やしたい・活躍できる場を広げたい・スキルアップを図りたいといった従業員の希望を受け入れることは先々で会社に還元されるメリットもあります。

一億総活躍社会を実現するため、政府の「働き方改革」によってさまざまな働き方が提唱され、副業容認の流れが加速しています。
時代の変化に取り残されないため、また労使トラブルを未然に防ぐためにも副業について社長や管理部門で話し合うなど、社内でコンセンサスを取るところから始めてみませんか?

(※1)厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和2年9月改訂版)
(※3)厚生労働省「モデル就業規則について」

【該当するSDGs目標】

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2022年12月16日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
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