中小企業が使うコスパの良い福利厚生制度

社員の満足度を上げる手段の1つに、福利厚生の充実があります。大手企業であれば、ユニークな福利厚生を導入することで、社内外に企業の魅力をアピールできますが、大きなコストや労力がかかってしまうため、中小企業は簡単には真似できません。しかし、ユニークな制度ではなくても、社員にとって満足度の高い福利厚生制度の導入を通じて企業イメージアップを図り、人材確保の戦略の1つとすることができます。中小企業でも導入しやすいおすすめの福利厚生制度をご紹介します。さらに後半では、社員の間で特に要望が高い福利厚生制度の1つである退職金制度を中心に解説します。

1. 福利厚生の種類

福利厚生には、「法定福利厚生」「法定外福利厚生」の2つの大きな枠組みがあります。それぞれの特徴と、具体的な福利厚生の制度をご説明します。

◆法定福利厚生

社員への提供が法律で義務付けられている福利厚生のことで、費用は企業が負担します。健康保険や介護保険、雇用保険、厚生年金などが該当します。

◆法定外福利厚生

法律上の義務付けはなく、企業が独自に社員への提供を定めている福利厚生を指します。法定外福利厚生も、企業が費用を負担します。冠婚葬祭や健康管理、自己啓発の補助などが該当します。特に人気が高い家賃補助と食事補助については、次の項で詳しくご紹介します。

2. 人気の高い福利厚生制度とは

企業が提供する福利厚生制度の中で、社員の間で人気が高い制度をいくつかご紹介します。

まずは、家賃や住宅ローンの補助です。家賃の一部や住宅ローンの一部を企業が援助します。企業にとって導入しやすいメリットがあるものの、企業にかかる負担の大きさや業績悪化などが原因で、近年は廃止・減額の傾向が進んでいます。

食事補助も人気の福利厚生制度です。具体的には、昼食代の一部補助や、社員食堂での栄養バランスを考えた食事提供などが挙げられます。食事補助を導入する場合、「食事費用の半分以上は社員負担」「月々の企業負担額は3,500円(税抜き)以下」の2つの要件を満たせば、税法上は給与として課税されません。

レジャーや宿泊などの補助も人気が高い福利厚生制度です。休暇や育児面での需要が多く、社員満足度も高い点が特徴です。

3. コスパの良い福利厚生選びのポイント

どうすれば社員の満足度を高めつつ、財務面で無理のない福利厚生制度を導入できるのでしょうか。コスパの良い福利厚生制度を選ぶ上で役立つポイントをご紹介します。

ポイント① 利用率が高く、費用がかかり過ぎないものを選ぶ

費用をかけて導入するからには、社員の利用率が高い制度を選ぶことが肝心です。また、いかに利用率と社員満足度が高い制度でも、会社にかかる負担が大きく健全な経営体制を圧迫するようでは本末転倒ですので、費用がかかりすぎないないものを選ぶのも重要なポイントです。

ポイント② 福利厚生で得られる効果を理解する

日頃から、社員が会社に対してどのような福利厚生を期待しているか、福利厚生により社員と会社双方にどのような効果があるかを理解しておく必要があります。独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査結果(※1)によると、福利厚生制度・施策を実施している企業では、半数以上が導入の目的を「社員の定着」「人材の確保」とともに、「社員の仕事に対する意欲の向上」を挙げています。多くの企業が福利厚生により、社員の会社に対する満足度が上がれば、業務の質や効率にも良い影響があると考えていることがわかるでしょう。
しかし、制度は利用されてこそ意味があります。的外れな制度導入での失敗を避けるためにも、福利厚生に対する社員の本音を探るためのアンケート調査を実施するなどの取り組みが必要です。

ポイント③ 将来への不安軽減に向けた手当を支給する

退職金や企業年金といった退職後の手当ては、これまで一般的に給与制度の一部と考えられてきましたが、最近では福利厚生制度としての側面から社員の関心が高まっています。公的年金のみでは退職後の快適な生活の維持ができないとの不安を感じている人々が増えています。その意味で、企業として社員の退職後の生活を支えるための手当を支給する取り組みが重要です。

東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情」の調査(※2)によると、約66%の企業が「退職金に関する何らかの制度を設けている」と回答しています。このデータからも、今後の企業にとって、企業年金や退職金などの退職後に支給される手当の整備は、主要な福利厚生の取り組みの1つになるものと推測されます。

4. 社員が定年後に受けられる手当て

定年後に受給される手当てには、次のような選択肢が考えられます。それぞれの仕組みや違いをご紹介します。

◆企業年金

企業年金は、企業が社員の退職後の生活向上を目的として導入する年金のことで、「確定給付企業年金(規約型・基金型)」「企業型確定拠出年金」の2種類があります

◆法人保険

法人保険は、法人が契約者、役員や社員が被保険者になり、保険料を負担する保険の総称です。経営者に何か起こった場合の事業継続リスクへの備え、事業承継問題への備え、役員や社員の退職金対策など、さまざまな目的で導入されます。

◆中退共・特退共

「中退共」は、「中小企業退職金共済制度」の略語で、中小企業向けに国が整備した退職金制度です。税制上の優遇があるほか、初めて加入する事業主や、掛金月額を増額する事業主向けに、掛金の一部について国からの助成があります。

もう1つの「特退共」は「特定退職金共済制度」の略語で、全国の商工会議所が運営している制度です。事業主が地区の商工会議所との間で契約を締結し、毎月の掛金を負担します。社員の退職時には、事業主ではなく商工会議所から退職金が支払われます。

5. 職場環境の改善が業績に寄与する

退職金制度が確立している企業は、福利厚生が充実しているといえます。福利厚生が手厚い企業は、求職者にとって魅力的です。同時に、既存の社員にとっても、長期的に会社に在籍し続ける理由の1つにもなり得ます。

そのため、優秀な人材を長期的に確保しやすくなります。人材の定着は業務スキルやノウハウの蓄積につながります。

さらに、社員のモチベーションや帰属意識の向上の面でも、福利厚生の拡充は大きな効果があるため、安定した業務運営には不可欠と言っても過言ではないでしょう。

6. 定年延長も安心の選択肢

定年延長も、社員の老後の安心のために取りうる選択肢の一つです。
定年延長が導入されれば、社員は収入源が確保できるので生活を安定させやすく、企業としても、経験豊富なワークフォースを安定確保できるメリットがあります。


福利厚生の充実は一見遠回りのアプローチのように思われますが、安定した企業運営には必須の取り組みです。しかし、無理に人気の福利厚生を取り入れて自社の利益を圧迫し、途中で持続不可能になるようでは本末転倒といえます。持続的な運用ができる制度でありつつ、労力がかからないという観点も重要です。福利厚生の運用には、可能な限り費用や労力を抑えて運用できる制度を導入することで、安定して継続できる状況を作りましょう。

りそな銀行では、企業年金の導入や定年延長などの人事制度設計のご支援において豊富な実績を有しております。ご興味がありましたら、お気軽にご相談ください。

(※1)独立行政法人 労働政策研究・研修機構プレスリリース「福利厚生制度・施策の実施状況」(2018年7月24日)
(※2) 東京都労働局「中小企業の賃金退職金事情(令和2年版) – 7. 退職金制度」(2020年12月)

企業年金について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2022年6月6日時点の内容となります。
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