社員向けの福利厚生として、株式型インセンティブプランを導入する上場企業が増加しています。日本経済新聞の報道によると、上場企業約3800社のうち、およそ2割が譲渡制限付き株式(RS)、株式給付信託、ストックオプションなどの従業員向け株式報酬制度を導入しています。
企業を悩ませる若手社員の離職率増加
近年、企業を悩ませているのは若手社員の離職率の増加です。厚生労働省が昨年公表した「新規学卒就職者の離職状況」(※1)によると、2018年3月に大学を卒業した新卒社員の就職後3年以内の離職率は31.2%。事業所規模別に見ると、規模の小さい企業ほど離職率が高いですが、1000人以上の事業所規模でも24.7%となっています。
労働政策研究・研修機構が調査した、新卒3年未満の離職理由を見てみると、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」「人間関係がよくなかった」「賃金の条件がよくなかった」などが回答の上位を占めています(労働政策研究・研修機構「早期離職の背景と離職後の就業状況」※2より)。仕事の内容そのものよりも、労働条件や人間関係への不満が、離職の大きな理由となっていることが見て取れます。
こうした結果を踏まえると、例えば人材確保のために給与水準を上げるというのも1つの選択肢だと考えられますが、より会社への帰属意識と業績向上へのモチベーションを高めるために、株式を活用したインセンティブプランを導入してみてはいかがでしょうか。
株式給付信託の特徴
株式を活用したインセンティブプランにはいくつかの種類がありますが、今回は株式給付信託についてご紹介します。これは、企業が拠出した信託金で対象期間中の株式を一括購入、対象となる社員に対して業績目標の達成度や職責などに応じてポイントを付与し、獲得ポイントに応じて、信託財産で保有する株式を支給する制度です。支給時期は在職中、もしくは退職時になります。
社員側、企業側それぞれのメリットは?
社員側のメリットとしては、業績への貢献度合いや職責に応じて自社の株式が給付されますから、モチベーションが高まる効果が期待されます。また、株価が上がれば受け取る株式の価値も向上します。中長期的な資産形成という点でも魅力的です。
一方、企業側のメリットとしては、社員の帰属意識・モチベーション向上による離職率低下が第一に挙げられます。中期経営計画をスタートさせるタイミングで導入すれば、全社一丸となって目標に向かっていくモチベーションが高まることが期待されます。さらに、金庫株を活用すれば、新たなキャッシュアウトを伴うことなく、社員に福利厚生を提供できます。持合いなど第三者保有株式が処分される場合に、受け皿として活用することも可能です。
また、株式給付信託を導入するということは、自社の株価上昇に対する強い自信を持っているとみなされますから、社員はもちろん、市場や既存株主からも好ましい評価を得られるというメリットもあります。
従業員持株会を活用することもできる
給付型ではなく、従業員持株会を活用した「従業員持株会支援信託(ESOP)」というプランもあります。こちらは、信託設定時に一括購入した株式を持株会が毎月、時価で購入します。信託終了後、株価上昇などによる残余財産が発生した場合は、残余財産を売却し、持株会加入者に分配します。一方、株価下落により信託財産にかかる債務が残る場合は、企業が債務保証します。持株会加入者の負担はありません。
社員への新たな福利厚生提供、そしてモチベーションアップという給付型と同様のメリットに加え、持株会への加入者比率が低い場合、このプランを導入することで、加入者が増えることも期待できます。
また、持株会によっては、正社員だけでなく、パートやアルバイトなど非正規社員も加入しているケースがありますが、その場合、非正規社員に対しても「従業員持株会支援信託」を導入することができます。
給付型、持株会型ともに、信託された株式は一定の基準をクリアすれば、原則、流通株式とみなされる点も魅力です。流通株式比率を上げる効果がありますし、実際に市場に売り出す株式ではないため、アクティビストらに取得されるリスクもありません。りそな銀行では、給付型、持株会型いずれにも対応した商品設計をご用意できます。ご興味があればぜひ一度、ご相談ください。
●自己株式の活用法については以下コラムもご覧ください。
⇒『自己株式を有効活用していますか?』
⇒『年金+従業員向け株式給付信託 新たな福利厚生制度の形とは』
※1 厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」
※2 労働政策研究・研修機構 「早期離職の背景と離職後の就業状況」