株式会社TIM Consulting 取締役 船橋郁恵
社会保険労務士・企業年金総合プランナー(1級DCプランナー)
出版社にて管理部門を担当したのち、社会保険労務士資格を取得。多くの企業や人と接するなかで、一人ひとりに寄り添ったサポートの重要性を感じ、企業におけるライフプランセミナー等の企画・運営に携わる。また、企業年金コンサルタントとして、企業型DCやiDeCo+制度等の導入支援を行うとともに、制度の魅力を広く発信し、普及推進を目指し活動中。
2021年ごろから世界的にインフレとなり、日本も例外ではありません。日本銀行は今年3月に続き、7月の政策決定会合で追加利上げに動きました。その背景にある大きな理由の一つが「物価の上振れリスク」です。長らくデフレでマイナス金利という環境に慣れてきた日本人は、いよいよインフレで金利のある世界に足を踏み入れたわけですが、退職給付制度についてはどう考えれば良いのでしょうか? TIMコンサルティングの船橋郁恵取締役にお話を伺いました。
賃上げだけではインフレに対応できない
世界的なインフレに加えて、円安が日本の物価高に拍車をかけています。これを重く見た岸田政権が「物価上昇を上回る賃上げの実現」に力を入れていることもあって、会社側も従業員側も賃上げへの意識は高まっています。
一方で退職給付についてはどうかというと、インフレに対応していこうという機運は今のところ、あまり見られない印象です。日本は長らくデフレでしたから、給付額を維持することに心を砕いてきた企業が多かったわけで、インフレへの対応に頭が切り替わるのはもう少し先なのだと思います。
ただ、今後もインフレが続いていくのだとすれば、当然ながら賃上げだけでは生活を守れません。退職給付制度についても、インフレ対応をしっかり見据えて考えていく必要があります。
DBとDCにおけるインフレ対応とは?
主な退職給付制度には、DB(確定給付企業年金)とDC(確定拠出年金)の2つの種類がありますが、DBの場合、最終給与比例(退職時の基本給に勤続年数に応じた支給率を掛けて計算する)ですと、賃上げをすれば退職金も上がっていくということになります。一方、大企業が多く採用しているポイント制(定められたポイントの累計と単価の掛け算で支給額が決まる)では、ポイントの算出方法が給与額とは別建てとなっているケースが多く、この場合給与を上げても退職金は上がりませんから、ポイント単価を引き上げる等の対応が必要となります。
いずれにしても、賃上げや退職給付引き上げを実行するためには、その原資となる利益をしっかり上げられる企業になる必要があります。競争力のあるビジネスを展開し、物価上昇分をしっかり販売価格に転嫁できるかどうかも重要なのです。
DCの場合は、毎月の掛け金を従業員個人が選択した金融商品で運用する仕組みですから、掛け金を引き上げるか、従業員がよりリスクをとって運用成績を上げていくことが、インフレ対応になります。
近年は中小企業でもDCを導入する会社が増加しています。企業側も福利厚生の一環でDCに関心を寄せるようになってきていますし、従業員数の少ない企業への導入サポートを金融機関が充実させてきているという背景もあります。
DC導入の際の注意点とは?
DBとDCで大きな相違点は「誰が運用の主体か」という点です。DBは企業が主体となって運用しますし、DCでは従業員一人ひとりが運用方法を選択します。
DCを導入する企業は増えているものの、運用を従業員に任せきりにしており、金融機関から届く運用に関係する資料や動画をイントラネットにアップして「見ておいてくださいね」で済ませているケースも多い印象です。しかし、これでは従業員の投資スキルは上がりません。「よくわからないからデフォルト商品に設定されている定期預金にしたまま放置する」というようなことでは、インフレに勝つ運用成績を上げることはできないかもしれません。
したがって、せっかくDCを導入したのなら、投資教育を会社側も積極的に行っていくことが重要です。たとえば、金融経済教育推進機構(J-FLEC)は、認定講師を無料で派遣しています。(https://www.j-flec.go.jp/instructors/)
こうした制度を上手に活用して、従業員の投資スキルが上がる仕組みを整えていただければと思います。
人材戦略について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。