世界的なインフレや円安傾向などを受け、あらゆるモノやサービスの価格上昇が続いています。政府は減税をはじめとした物価高対策を実施していますが、暮らしは依然として厳しい状況にあるといえます。一方で賃上げは進んでいるでしょうか?
「賃上げ実施」の半数以上が「防衛的な賃上げ」
2024年4~5月にかけて、日本商工会議所と東京商工会議所は全国規模で「中小企業の賃金改定に関する調査」を実施。1,979社の中小企業に対し、賃上げの現状について実態を把握するためのアンケート調査を行いました。
2024年度に「賃上げを実施(予定含む)」と回答した企業は、全体では74.3%と7割超。同年1月に同様の調査を行った際は「賃上げを実施(予定含む)」という回答が61.3%でしたが、今回は13.0ポイント増えており、賃上げへの取り組みが進んでいることがわかります。
ただ、その内情を見ると、企業側の苦しい台所事情が透けて見えます。というのも、「賃上げ実施予定」と回答した企業のうち、業績が好調なため賃上げを実施するという「前向きな賃上げ」は約4割(40.9%)にとどまる一方、業績の改善が見られないが賃上げを実施するという「防衛的な賃上げ」は約6割(59.1%)という結果になったのです。
防衛的な賃上げの目的は「従業員をつなぎ止めるため」。昨今は人手不足にも拍車がかかっており、中小企業に大きな負担がかかっている状況と言えます。
業種別では、「賃上げを実施(予定含む)」と回答した割合が高かったのは、「卸売業」(81.5%)、「製造業」(80.2%)。逆に低かったのが「医療・介護・看護業」(52.5%)という結果でした。全業種で、半数以上に賃上げの動きが見られたものの、業種によって温度差があることがわかります。
正社員の賃上げ実態は?
正社員の「賃上げ率」を2023年4月と比較すると3.62%という結果でした。ただし従業員数20人以下の小規模事業者では3.34%と、やや低い数値です。
賃上げ率の高い業種は「その他サービス業」、「小売業」で4%台。一方、「運輸業」、「医療・介護・看護業」では2%台にとどまっています。
また、賞与・一時金を「昨年度を上回る水準で支給(予定含む)」とする企業は、23.9%でした。業種別に見ると、賞与・一時金の増額に積極的なのは「医療・看護・介護業」、「卸売業」、「情報通信・情報サービス業」など。これらの業種では、全体の3割超が賞与・一時金の水準を昨年度より上げる(予定を含む)と回答しています。一方、「宿泊・飲食業」では20%に届かない水準となっています。
価格転嫁は道半ば
自由回答欄からは、インフレで原材料高に苦しむ一方、価格転嫁がままならない状況がうかがえます。「電気代、人件費は上がるが 製品単価に反映できない」「物価高騰やキャッシュレスの手数料などで小売業は利益を出すことが難しくなっている」「賃上げしなければいけない風潮のために利益を削っているのが現状」との声が上がっています。
さらに、「人手不足、残業規制などで仕事を減らさなければならない中で、給与を上げ続けることは厳しい」「社員は社会保険料の増加などで賃上げの実感がない」「就業調整の要因となる130万円の壁について抜本的な対策をしてほしい」など、制度上の課題を指摘する声もみられました。
大企業では賃上げの動きが活発になり、2024年はベースアップ満額回答も相次ぎましたが、一方で中小企業の賃上げはまだまだ厳しい現状であることがうかがえる結果となりました。特に20人以下の小規模事業者が賃上げを実施するためには多くの課題があり、時間が必要なようです。
日本商工会議所・東京商工会議所(2024年6月5日)「中小企業の賃金改定に関する調査」集計結果
課題解決の考え方及び人材戦略について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。