なぜ、ビジネスパーソンのうつ病が増えているのか

近年、増加しているといわれる心の病「うつ病」。うつ病で通院していたり会社を休職したりという人は決して少なくありません。現代において患者が増えている原因は何か、そもそも、うつ病とはどのような病気なのか。また、自分がうつ病かどうかを見極めるにはどうすればいいのか、広岡クリニック院長の広岡清伸先生にお話を伺いました。


広岡清伸

広岡清伸
医療法人社団孝和 広岡クリニック 院長・理事長
精神科専門医、精神科専門医制度指導医、精神保健指定医
富山県高岡市出身。早稲田大学中退後に、日本大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院研修医、堀ノ内病院、関東労災病院などを経て1992年に横浜市港北区に広岡クリニックを開設。患者の目線に立って治療する独自の「肯定的体験療法」が評判を呼ぶ。今まで診察してきた患者は1万人を超える。

うつ病が増加した2つの理由

厚生労働省のデータを見てみると、1996年には約43.3万人だった気分障害(うつ病など)の患者数は、2017年には約127.6万人とおよそ3倍に増えており、その後も高い水準が続いています。

気分[感情]障害(躁うつ病を含む)の総患者数(代表値)

しかしこれには、必ずしも、うつ病患者そのものが「増加している」というだけではない側面があります。

数字が増えた理由のひとつは、これまで隠れていた患者さんが正しく診断されるようになったことです。昔は精神科クリニック自体が少なく、精神科は今よりも行きにくい場所でした。多くのうつ病患者は「おなかが痛い」「頭が重い」といった身体症状を伴いますので、まず内科を受診する方も少なくありませんでした。内科医も症状に応じて薬を処方しますが、心の問題に立ち入らないため本質の「うつ病」という診断には至らないケース(仮面うつ病)が多くあったのです。

近年は、内科医など精神科以外の臨床医もうつ病を見抜く力がついてきているので、患者さんに精神科受診をうながすようになり、実際に、内科を受診した患者さんが精神科・心療内科を紹介されるケースは増えています。現在は精神科・心療内科のクリニックも増え、抗うつ薬などの薬物療法も進歩し、「心の風邪」という言葉の普及もあり、受診への抵抗感が薄れ、潜在的な患者さんが顕在化したという側面もあります。

もうひとつには、企業で行われるストレスチェックと産業医面談によって、うつ病と診断される患者さんが掘り起こされているという要因もあります。具体的には、高ストレスと判定され、産業医面談を経て、精神科を紹介されるというルートが定着しました。これにより、以前なら我慢していた層が受診するようになり、患者数は数字上さらに増えています。

そのほか、高齢者人口の増加に伴って高齢者の治療やケアの体制も整ってきたため、うつ病の診断を受ける高齢者が多くなってきたこと、さらに、いわゆる「新型うつ病」が診断されるケースが増えたことなどが、数字増加の要因となっているのです(新型うつ病については、「うつ病のある職場」でできることは?」記事を参照)。

「うつ病を生みやすい職場」への変化

ビジネスパーソンを取り巻く環境は、かつてないほど過酷になっています。1990年代のうつ病患者の急増の背景には、バブル崩壊による不況がありました。さらに、2008年にはリーマンショックがあり、非正規雇用制度が定着するとともに、終身雇用による安心感が失われました。

かつての日本企業では、家族的な結束が重んじられてきました。飲み会などの「無駄」に見える時間が、実は人間関係の絆を作っており、それがセーフティネットとして機能していた部分があります。しかしながら、現代は成果主義・能力主義です。個人の年間目標が数値化され、未達成であれば容赦なく評価が下がります。国際競争も激化し、常にプレッシャーに晒されているのです。

以前のような「職場の家族的な絆」が希薄になったため、苦悩を抱えても相談できず、一人で抱え込んで疲弊してしまう――これが現代のうつ病増加の大きな背景となっています。診断される数が増えただけでなく、社会そのものが「人が孤立し、心をすり減らしやすい構造」へと変わってしまっているのです。

潜むうつ病を見極める! 10のチェックリスト

そもそも、うつ病とはどんな病気なのでしょうか。ICD-10(国際疾病分類)では、「気分の落ち込み」「興味・喜びの喪失」「意欲の低下による疲れやすさ」の3つが、うつ病の典型的な症状と見なされています。

そのほか、集中力と注意力の減退、睡眠障害、食欲不振、自己評価と自信の低下、自分自身が無価値だと思うこと、自殺を考えること、などが挙げられます。ここで、うつ病のセルフチェック項目をご紹介しましょう。次の10の項目に自分自身が当てはまるかどうか、考えてみてください。

  1. 精神が疲れている感じがする
  2. 意欲が低下している
  3. ゆううつな気分である、日常生活が楽しくない
  4. 集中力、注意力が低下している
  5. 仕事、勉強、家事などをするのが辛い
  6. 不安、あるいはいらいらすることが多い
  7. 体がだるいと感じることが多い
  8. 睡眠障害を生じている(眠れない、眠りすぎる)
  9. 食欲がない、あるいは食べ過ぎる
  10. 微熱、下痢、便秘、吐き気、腹痛、肩こり、めまい、動悸、息切れ、喉の異常感、発汗、頻尿などの身体症状のうち4つ以上該当する、あるいは、これまでなかったのに2つ以上出現してきた

前半の1〜5に当てはまれば、うつ病が強く疑われます。後半の6〜10はうつ病によく認められる体と心のシグナルで、比較的自覚しやすいものです。こちらも、うつ病が潜んでいる可能性があります。

「まだ大丈夫」は危険?――医療機関に相談すべきベストタイミングとは

精神科・心療内科を受診すべきかの判断ポイントは、「生活に支障があるかどうか」です。前述のチェックリストはあくまでも目安であり、該当していても生活に支障がなければ、まずは様子を見ておいていいでしょう。

一方で、生活に支障をきたしている場合は、該当する項目が少なくても、一度医療機関を受診してみましょう。たとえば、内科で異常がないのに体調不良が続く場合、あるいは「眠れない」「食べられない」といった生活への支障が出始めた場合は、早めの受診が大切です。こうしたサインが見られたら、迷わず受診してください。

そして、ご家族と同居している場合は、ご家族(配偶者やご両親)と一緒に受診することをおすすめします。うつ病は「孤独の病」です。身近な家族が病気を正しく理解し、味方になることが、回復への一番の近道です。

りそなBiz Actionではこれらの資料もご用意しております。ぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2026年3月13日時点の内容となります。
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