ここ数年、身近なお店などの雰囲気に変化を感じることはありませんか? 世界的なコーヒーチェーンはスタッフの髪色を自由化。複数の金融機関では、フォーマルな服装で勤務するというドレスコードをなくしました。働き方や仕事への価値観が多様化する中、従業員の自律性を高めることやコミュニケーションの活性化、働きやすさ向上などにつなげるねらいがあるようです。
職場だけでなく、プライベートを含めた配慮も求められています。LGBTなど性的マイノリティーの当事者らへのケアをめぐっては、同性パートナーらを法律上の配偶者と同じように福利厚生などの対象とする動きが近年、企業で広がっています。他にも、女性管理職や障害のある人を積極的に登用・雇用するなど、多様性を重視して誰もが働きやすい職場をつくる傾向は強まっています。
多様性を重視することで経営全般に効果が
このような取り組みに対しては、重要性は理解しつつも「経営上のメリットが見えにくい」というイメージを持たれるかもしれません。しかし実際は、中堅・中小企業の経営成果に結びつきやすいという調査結果もあります。経済産業省の分析(※1)によると、「多様な人材の活躍に向けた取組を行い、企業の価値創造につなげる経営」(ダイバーシティ経営)を行っている企業はそうでない企業に比べ、「採用」「定着」「仕事への意欲」「満足感」「売上高」「営業利益」の全ての項目で、「良い」「うまくいっている」と答えた割合が高くなっています。経営全般への効果が高いと言えるでしょう。
ダイバーシティ経営への取り組みは人材不足の課題にも有効です。さまざまな価値観を生かすことや女性登用の推進は、結果として今いる人材の定着はもちろん、「働き手を増やすこと」にもつながります。
ダイバーシティ経営の人材獲得に対する効果については、経産省の別の資料(※2)にも記載があり、とりわけミレニアル世代(1980年~1995年生まれ)は、就職先を選定する際に「企業の多様性や受容性の方針を重要視している」ことが分かっています。
「ダイバーシティ経営」「D&I」「DE&I」の意味
SDGsの達成やサステナビリティ(持続可能性)が注目される今、多様性や働きやすさにまつわる言葉はさまざまありますが、企業経営に関してよく使われるのが「ダイバーシティ経営」や「D&I」、さらに進んだ「DE&I」です。これらの言葉の意味を簡単に整理しておきましょう。
まず、「ダイバーシティ(Diversity)経営」は、狭義では「多様な人材を集めることで、企業の競争力を高めること」とされています。この「D」にInclusion(包括性)の「I」を加えたもの、つまり、歓迎の気持ちを持って誰もが安心できる環境をつくり、包摂するという考え方が「D&I」です。さらに、Equity(公平性)まで重視して実効性を高めたのが「DE&I」。この「E」は単に平等に同じ扱いをするEquallity(平等性)ではなく、個々の状況や事情に照らして活躍の場や機会を提供するEquityであるというのがポイントです。
取り組みの内容は多彩 中小企業も効果を実感
具体的な取り組みについては、経産省の「新・ダイバーシティ経営企業100選 ベストプラクティス集」に多くの事例が紹介されています。従業員によるアイデア出しの活発化や、顧客満足度と単価の向上、人材不足の解消など、明確な効果を上げている企業も少なくありません。
一方で、こうした取り組みの実践は余力のある大企業にしかできないという先入観は取り払っておきたいものです。1人ひとりに目が届きやすい中小企業だからこそ、挑戦できることがあります。
例えば、同資料(令和2年度)に掲載されている愛知県の大橋運輸株式会社は、DE&Iの取り組みを幅広く行っています。障害のある人や高齢者を積極的に雇用する他、外国籍の社員も受け入れています。日本語を母語としない社員には、公平な活躍のチャンスを提供できるよう、通訳者を配置してコミュニケーションを円滑にしたり、日本語教室を開いたり、母国に里帰りする旅費の補助も行っています。中小企業の機動力を生かして多様な人が活躍できる土壌をつくったことで、新規事業や求職者の増加にもつながっています。
人材基盤の強化には、さまざまな手法があります。自社の取り組みを改めて見直した上で、DE&Iという目線でも検討し、企業の持続的な成長につなげませんか。
(※1)経済産業省「~3拍子で取り組む~ 多様な人材の活躍を実現するために ~」
(※2)経済産業省 ダイバーシティ経営の推進「競争戦略としてのダイバーシティ経営(ダイバーシティ2.0)の在り方に関する検討会」報告書
SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。