ESGの「S(ソーシャル)」に光を当てる、民間主導の課題解決モデル

アフォーダブルハウジング事業を手掛けるLivEQuality(リブクオリティ)グループ。彼らの事業は、単に住まいを提供するだけでなく、困窮する人々の自立を促す独自のソフトサービスを提供しています。これは、行政だけでは手が届きにくい、民間にしかできない取り組みです。代表の岡本拓也さんにお話を伺いました。


岡本拓也
LivEQualityグループ代表

日本版アフォーダブルハウジング市場を創出するソーシャルスタートアップLivEQuality創業者・代表。公認会計士としてPwCにて企業再生、NPOの経営を経て、’18年に父の急逝を機に建設会社を承継。第二創業推進中にコロナ禍となり、シングルマザーの住まい貧困を解決するLivEQualityグループを創業。その他、グロービス経営大学院講師、経産省・内閣府の審議会委員、複数の財団・社団・NPOの社外役員を歴任。

投資家からの共感を得られる理由

LivEQuality(リブクオリティ)グループは、株式会社LivEQuality大家さんと、認定NPO法人LivEQuality HUBから成っています。LivEQuality大家さんで住宅を取得して貸すわけですが、銀行借り入れとともに、インパクトボンド(私募社債)を発行して資金調達を行ってきました。利回り0.1%、償還期間20年、一口1,000万円というボンドです。利回りよりも社会課題解決のインパクトに重点を置いた、非常にニッチな金融商品であるにもかかわらず、すでに2億円以上を集めることができています。

社会課題解決にしっかり取り組むということを契約書にも盛り込んでおり、それを条件に投資家にはこの低い利回りを受け入れていただいています。また、「シングルマザー家庭に家を提供し、住まいから尊厳を取り戻し、つながりの提供によって自立を促す」というシンプルで明確な事業モデルを評価していただけたと思います。

預けた資金はすべて不動産に投じられますから、「何に使われているかわからない」という不安はありません。「銀行に預けても何に使われるかわからない。良いことに使ってくれてありがとう」と言ってくださる方もいました。私の熱意を買ってくださった投資家もいます。また、「自分も将来、大家さんになりたいから勉強したい」という、社会貢献に意欲的な人もいました。

行政との役割分担と支援体制

本来、住宅支援は行政の役割だと思われがちですが、行政だけですべての問題を解決するのは難しいと思っています。行政には縦割りという限界があり、さまざまな行政サービスをしっかり繋ぐ役割の人が不足しています。また、シングルマザーが自ら相談窓口を訪れても、「再婚しなさい」などと心ない言葉をかけられ、孤立を深めるケースもあるようです。

そこでリブクオリティグループは、単に住居を低価格で貸すだけでなく、伴走支援というソフトサービスも提供します。月に一度の訪問や、LINEでのコミュニケーションを通じて、生活に寄り添い、孤立を防ぎます。中にはLINEでの問いかけに答えてくれない人もいます。その場合は、ドアノブにお米の袋をそっとぶら下げておくなど、負担にならないコミュニケーションを続けるようにしています。

母子に伴走するNPOによる支援

「助けて」と言えない社会はやはり問題です。何か困っているときに相談できる先があるというのは、心強いものです。ただ、我々がなんでもやって差し上げるというのは非効率ですし、依存を深めるリスクもあります。そこで、「つなぎ役、橋渡し役」というスタンスを重要視しています。食料支援や弁護士など、適切な支援先に繋ぐハブの機能を果たしたいと考えています。

伴走支援の強み

現在のところ、入居しているシングルマザーの8割以上が就業に繋がり、家賃も100%支払われています。さらに、次のステップへと踏み出す「卒業者」も出ています。あるシングルマザーは当初、仕事がなかなか見つからず、簿記3級を取ったところ、ようやく派遣ではあるものの、仕事が見つかりました。そして1年後には、もっと広い家に移りたいということで卒業されました。この方は、「リブクオリティと出会って、もうこれ以上は状況が落ちないという底を打った感覚があった」と語っていました。

行政や研究者の方々からすると、卒業者がいるというのは信じられないことのようです。単に住宅というハードを提供するだけでなく、きめ細かい伴走支援というソフトサービスを充実させることで、気力や体力が回復し、自力で次の一歩を歩めるのではないかと思っています。

そして2025年10月からはりそな不動産投資顧問とひとり親支援型インパクトファンドを組成し、運用を始める予定です。このファンドは、一般的な不動産ファンドよりも若干低い投資利回りを設定し、一般住宅75%、アフォーダブルハウジング25%の割合で運用することを目安としています。

投資家がリターンを一部譲歩し、アフォーダブルハウジングとして設定した部屋の家賃を相場よりも2〜3割安く提供するリブクオリティの事業モデルと、入居者への伴走支援と一般住宅部分の適切な運用のバランスで成り立ちます。闇雲に利益だけを追求するのではない、いわば「みんなが持ち寄る経済」の第一歩と言えます。

ESG投資のE(環境)やG(ガバナンス)はビジネスモデルがわかりやすく、投資が集まりやすい一方で、S(ソーシャル)は評価が難しく、投資が進んでいませんでした。リブクオリティの取り組みは、このソーシャルの「S」に光を当てる、画期的なモデルだと自負しています。

不動産の有効活用について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年11月7日時点の内容となります。
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