欲しい人材が集まらない、若手が定着しない。人材紹介業者任せで費用対効果も気がかり――。創業時からのベテラン勢に加えて、新しい風を吹かせる戦力を求める経営者にとって、採用で悩む場面は少なくないのではないでしょうか。中小企業では特に、一人ひとりがもたらすインパクトも大きいものです。従来のやり方で限界を感じるなら、新しい採用方法を検討してみるのはいかがでしょうか?
生産人口の減少、多様化で採用の競争は激化
日本の総人口が減る中、多くの業界や企業で、人材獲得競争が激化しています。経済産業省の「未来人材ビジョン」(※1)によると、2020年の生産年齢人口は約7,400万人ですが、2050年にはその3分の2である約5,300万人にまで減少します。
また、デジタル領域をはじめ職種が多様化し、働き方や仕事への価値観も人それぞれになってきています。待遇や福利厚生だけで振り向いてくれるとは限りません。どこにいても、スマホ1つで採用案件に応募できる時代。応募を待って紙ベースで書類選考をし、役員が面接して…という従来のやり方だけでは、ターゲット人材にアプローチできない恐れもあります。
採用の課題解決を目指した、新しい手法
適性・能力やカルチャーについて企業側と求職者側が求めるものをどれだけ一致させるかを示す「マッチング率」の向上やコスト低減、他社との差別化など、採用を取り巻く課題があるなか、自由な発想に基づいた採用方法が多く生まれています。
オンラインツールで、効率的にマッチング
時間や物理的な制約にとらわれず、無駄を減らして採用する上では、オンラインツールを使うことが有効です。
- オンライン完結型…デジタル面接などを導入して、オンラインで完結させるやり方です。人材をグローバルで迎えられ、スキル測定や選考時間の短縮もできます。
- ソーシャルリクルーティング…検索手段としても身近なSNSで、動画や写真を活用し、働く人や職場、事業の魅力を伝えます。潜在的な求職者にもリーチしやすく、拡散性があり、ターゲティング広告も可能で、ファンの増加につながる可能性があります。
- ダイレクトリクルーティング…応募を待つのではなく、企業側がデータベースなどを活用し、直接アプローチする「攻めの手法」。多くのサービスやツールがあります。
「人」「現場」の力でマッチング向上を狙う
知り合い伝手や自分で見聞きした情報には、親近感や価値を感じるもの。リアルの人の繋がりや現場体験を通じて、丁寧にマッチング性を見極めます。
- リファラル採用…従業員がリクルーターになり、候補者を推薦します。能力や適性への評価など、しかるべき選考手順を踏むことで、優秀な人材を確保しやすくなります。
- インターン(就業体験)…国が、就職活動中の学生への評価を選考時にも使えるようルールを見直す(※2)など、今後重要性が高まる可能性があります。
フランクな場で「入口」を広げ、ミスマッチを減らす
自社をより深く知ってもらい、求職者側の認識との「ズレ」を減らせると、マッチング率の向上につながるかもしれません。求職者の本音やニーズを知る機会にもなります。
- ミートアップ(交流会)…自社が企画して場を設け、魅力を伝えます。参加者側にも、繋がり作りや知識の習得といった利点があり、企業への好感度が高まりそうです。
- カジュアル面談…判定が下される面接とは違い、フランクに双方向のコミュニケーションができます。志望度が低い段階でも、関心を持ってもらえる可能性があります。
「多様性」に寄り添うスタンスを発信
「多様性」が叫ばれる今日。求職者の抱える事情を理解し、チャレンジの意欲を尊重することで、企業スタンスへの共感や、多様な人材の確保につなげたいところです。
- 通年採用…日本では春入社の「新卒一括」がまだまだ主流ですが、応募時期が長い通年採用も広がっています。グローバルな人材募集に対応しやすいほか、入社までの期間で幅広い経験を積んだ人材を迎えることができます。
求職者の「強み」「一芸」にスポットライト
自社の事業に活かせるような特定の「強み」に焦点を当てることで、ターゲット人材を集めるユニークな手法もあります。ネット検索で表示される情報を履歴書代わりとする方法、実績を伝える自己PR動画を募る方法、学生時代に打ち込んだものが分かる「卒業論文」や「卒業制作」などの成果を評価する方法などがあります。
自社のマーケティングや成長に直結
最近は、「採用マーケティング」という言葉を聞く場面も増えてきました。商品の売上を伸ばすため、ニーズ調査やターゲット設定をし、認知度向上や差別化を進め、ファンを育てるといったマーケティング手法を採用活動に取り入れるものです。従前のような「受け身」ではなく、優秀な人材を効率的に獲得しようと主体的に動くことで、人材獲得の競争に乗り遅れないようにしたいですね。
求める人材が明確で、丁寧なコミュニケーションができればミスマッチのリスクを減らせ、離職によるコストや業務停滞のリスクの低減にも結びつきます。「自社採用」が増えればエージェント報酬を抑えられ、自社にフィットした人材の能力を引き出せれば、企業の成長にもつながります。
採用の方法は多様化しています。求職者の視点にも立って工夫することは、自社にさまざまなメリットをもたらしそうです。
(※1)経済産業省「未来人材ビジョン」(2022年5月発表)
(※2)文部科学省 インターンシップの推進に当たっての基本的考え方
日本経済新聞「インターン評価を採用時に利用決定 政府、条件付きで」(2022年6月13日付記事)