企業年金の「見える化」で何が変わる?確定拠出年金を実施している企業が準備すべき3つのこと

確定拠出年金(企業型DC)の普及とともに、企業が従業員に対して年金制度を分かりやすく伝える責任が増しています。近年では、「資産運用立国」の実現を掲げる政府の方針のもと、企業型DCの運用商品に関する情報の「見える化(可視化)」に向けた動きも進んでいます。
本稿では、企業型DCを実施している企業が押さえるべき背景と、対応すべき3つのポイントを解説します。

国・行政による「見える化」の動き

政府は現在、「資産運用立国実現プラン」に基づき、企業型DCにおける運用商品ラインナップの比較可能性を高める取り組みを進めています。
たとえば、金融庁の資料では、運用商品の情報が「他社や他の運営管理機関との比較の視点も含めて見える化されていく」方向が明示されています(※1)。これを受けて、厚生労働省では、社会保障審議会にてDC制度の見える化をテーマとした議論を実施。各企業における商品ラインナップの比較情報を集約・公表する方向性や、運営管理機関への情報提供のあり方改善が検討されています(※2)

企業に求められる3つの実務対応

こうした「見える化」は制度の透明性向上に寄与する一方で、それだけでは従業員の理解促進や制度活用にはつながりにくいかもしれません。企業には、制度を自社の福利厚生として積極的に活用し、従業員に対して分かりやすく伝えていく役割が期待されています。
この取り組みは、従業員満足度の向上やエンゲージメント強化にもつながるため、企業にとってもメリットのある施策です。

ここでは、企業型DCを導入している企業が今すぐ取り組める3つの対応策をご紹介します。

1. 年金資産の運用状況を「見える化」する

まずは、従業員が自身の年金資産の状況を把握できる環境整備が重要です。
個人別資産照会サイトや、資産配分・残高が確認できるポータルサイトなどの情報を社内で周知し、アクセス方法や利用の意義を伝えましょう。また、年に1回以上「お取引状況のお知らせ」等のレポートを配布し、資産運用状況の振り返りを促すことも有効です。

2. 将来の受け取り額を「見える化」する

従業員が制度の価値を実感できるよう、「いま拠出している金額」と「将来の受取見込み額」を具体的に提示することが大切です。
Web上で簡易シミュレーションが可能なツールもあり、例えば以下のようなページを案内することで、従業員の関心を引き出せます。

年金シミュレーター
ライフプランシミュレーション

また、運用状況に関心を持ち続けてもらうために、年代別・収入別のモデルケースを提示したり、個別通知書類とともに運用の成功例を紹介するなどの工夫も効果的です。

3. 制度内容を分かりやすく「伝える」

「見える化」された情報を従業員が正しく理解するためには、制度内容やリスクの説明が欠かせません。
まずは年1回の福利厚生説明会などの場に、年金制度の紹介セッションを組み込むとよいでしょう。必要に応じて外部講師を招いたり、質疑応答の時間を確保することで理解促進につながります。「よくある質問」をまとめた資料を配布するのも有効です。さらに、希望者向けに個別相談窓口を設けることで、より深い理解を支援できます。


これらのポイントを押さえて対応することで、従業員の年金資産運用を促すだけでなく、従業員との関係性強化にもつなげられるはずです。

はじめの一歩が、従業員の安心につながる

制度の内容を理解し、自身の将来設計に役立ててもらうためには、従業員への継続的な情報提供とサポート体制の構築が不可欠です。企業としては「伝えたつもり」ではなく、「伝わったかどうか」の視点が求められます。従業員一人ひとりが制度の価値を実感し、納得感を持って活用できる環境づくりが必要です。

すべてを新たに整備する必要はなく、既存の福利厚生制度に組み込む形で取り組むことも可能です。さらに、金融機関などの専門家の支援を受けることで、企業側の負担を軽減しながら対応を進めることができます。自社にノウハウがない場合は、外部の支援をうまく活用することも一つの戦略です。
りそな銀行では、企業年金制度に関する情報提供や、制度説明会の実施支援も行っていますので、ぜひご相談ください。

制度改正に向けた早めの対応は、企業の透明性向上や人材定着にも役立つはず。この機会に、自社の制度活用状況を見直し、従業員にとって魅力的な制度となることを目指しましょう。従業員との信頼を一層強固なものにしていくことが、組織全体の持続的成長にもつながるはずです。

※1 金融庁「資産運用立国実現プラン」(2023年12月)
※2 厚生労働省「第39回 社会保障審議会 企業年金・個人年金部会 議論の整理(案)」

企業年金、賃上げの方法について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2025年8月29日時点の内容となります。
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