利益を追求していく使命のある企業にとって、SDGsはビジネスとして“儲け”に繋がりにくいイメージが拭えない。その理由から、なかなかSDGsの取り組みに至っていない企業も数多く存在するなか、SDGsが“儲け”そのものとなり、SDGsを経営戦略の打ち手として考え、取り組んでいる企業がここにある。
キリスト教の教えに基づく学院として設立され、阿倍野の地で開学して118年、短期大学71年、認可保育園と幼稚園を95年以上と、歴史深い学校、幼稚園・保育園グループ。
短大設立70周年を機に第二創業として経営陣の若返りと教育事業の再構築を目指す。社会課題解決のための事業戦略と、SDGsの視点で打ち手を考えた背景について、学校法人OCC 理事長 根岸正州氏に伺った。
SDGsの視点で経営戦略を考えたきっかけはございますか?
SDGsの視点で、なぜ100年近くも続いている事業を見直そうと思ったかということですけれども、次の100年も続いていく学校にしていきたいと捉えた時に、大きなトレンドとしてSDGsの流れというのはこれからどんどん強まるだろうと考えました。
SDGsというのはCSRとか社会貢献というものではなくて、本業そのものの中でいかに社会と環境に価値を生み出しながら見返りとして儲けをいただくのか、こういう領域に来ているとなると、それが強まるということはそれで儲かるってことじゃないかと考えました。その時に、10年後のビジョンの中で必ずそこが大きなポーションになっているだろうと考えました。
そこから既存の延長ではなく、バックキャストして5年後何をしたらいいか、3年後何をしたらいいか、と考えていくと、それでは今、何をしないといけないかとなるので、10年後を見越した既存事業の現在の見直しということが避けられないだろう。このような観点で、既存事業の見直しを、SDGsの視点で行ったということになります。
経営戦略として海外留学生招致に目を向けた背景についてお聞かせください。
海外留学生招致というものについては多く背景として3つあります。
1つ目は入り口の戦略です。日本人の学生が少子化の影響でどんどん減っているという一方で、アジアの大学生が毎年大阪府の人口ぐらい増えているという統計があります。
「アジアの教育熱の爆発」と「日本国内の少子化」このトレンドを捉えたときに、いかに海外の方々に教育機会を提供するのか、これが大事だろうということで、入り口戦略として考えた点が1つ目の背景でございます。
2つ目は出口戦略ですが、特に地方を中心に日本の少子化がありますが、みんな都会に出ていきます。となると、地域には高齢者がたくさん残っていて、その方々向けの人材不足をどうするんだ、と。そういった方々向け(地域)へ人材を供給してほしい、教育機関としても地域で働く人たちを育成してほしい、そのようなニーズが産業界にありました。
そういう人材を育成するためにどうしたら良いだろうかと考えると、日本人は嫌だと入ってくれないから、留学生に入ってもらった方がいいよねと、このような出口戦略を考えています。あわせて都心だと、若い方がいてITは普通に使われているのですが、田舎に行くとアナログでITもなかなか進まなくて、効率性が上がらないところもあるので、「地方で頑張れるIT人材」を出口として求められることもあって、その背景に対して適用していこうというのが2つ目の背景です。
3つ目に教育機関の使命ですが、「教育の国際化が必要になるだろう」というところが1つの大きな背景でございます。留学生が来てくれれば、学生が埋まって嬉しいというだけになってしまうと、その考えは良くなくて、これからの時代を生きていく若者たちはグローバルで競争しなければならない、という中において、「留学生だけではなく日本人も、留学生と共同的に学習することで、さらに学びが深まる。」こういったところを大事に捉えておりまして、留学生招致という経営戦略の3つ目の背景になります。
戦略実現に向けてどのようなことを行ったかお聞かせください。
留学生を増やすための施策としては、本当にいろいろなことをやったんですけども、大きく4つの施策がございます。
1つ目はまず学内で国際センターを新設しまして、これまでは日本人学生中心だったものですから、留学生に対応できるような職員を新たに採用して、メンバーも集めて対応できる体制をつくりました。その上でグローバルなマーケティングというのをしっかり徹底して、新たに留学生に関するコースや学科をつくるということの周知徹底を図る、こんなことをやったのが1つ目でございます。
2つ目に、ターゲットとなる国(具体的にはカンボジアとラオス)へ出ていき、現地のトップ校と戦略提携を結んで、現地における日本語教育なども社会貢献として取り組みながら、「優秀な学生を日本に送ってよ」と。このような現地に出ていくようなアライアンス活動もやって、優秀な学生の獲得につなげたというのが2つ目でございます。
3つ目が、教育テックコースで先ほどのように、IT人材を育成していくということもあるのですが、地方のヘルスケア人材に対応していく事業はその当時はまだOCCにはありませんでした。そこで看護学部だとか、ヘルスケアで強みのある学校の方から、留学生に関連する介護教育をやっている事業譲渡を受けまして、そこで留学生も一緒に200名ぐらい来ていただきましたし、教職員もプロフェッショナルな方々にそのまま来ていただきました。ノウハウがないところはそのまま全部事業を引き受けて学生もついてきた、このようなことが3つ目の取り組みでございます。
4つ目の取り組みがより大事でユニークなのですが、人材紹介・派遣に強みのあるバリュースタッフという企業を子会社化しました。留学生が日本に来たときに、学校で学ぶだけではなく、生活をサポートするために住む場所が必要です。そのために留学生寮を手配して運営をバリュースタッフにお願いしたり、働く場所という意味ではアルバイトをしながら日本の働き方に慣れていくということだったり、子会社側のバリュースタッフの方でも一緒にやって「学ぶところ・住むところ・働くところ」、この3つをしっかりと事業として取り組んで、学生のためになるようにしました。なかなかそこまで踏み込んでいる学校は少ないものですから、留学生の獲得につながったというのが大きく4つの施策を取り組んで成果を上げてきているところでございます。
SDGsと事業が結びつく経営戦略の考え方についてお聞かせください。
学校法人としては、教育機関でございますので、事業そのものがSDGsに貢献する事業使命を負っていると考えています。とりわけ本学の使命としては、「子どもの笑顔が輝く社会を実現しよう」ということを目指しておりまして、そのために10年の計というのもつくって長期経営戦略を実行しています。
まず、既存の事業・業種を一度SDGsの視点で見つめ直して、SDGsで儲けるというとちょっと罪悪感があるように思えることもあるのですが、そんなことはなく、儲けることができないかと考え直すというのが一つ重要かなと思っています。やはりSDGsというのは社会貢献活動だとか、CSR、企業の社会的責任とは異なっている、本業で広がらないと意味がない、本業が儲からないと続かないので、逆にいうとSDGsというのが弱まることはなくて強まることしか今後のトレンドとしてないわけですね。
既存の仕事の仕方で、ずっとうまくいっていればいいのですが、うまくいってない産業は1度そのSDGsの視点でトレンドに乗ってみてそこで儲かることがどこでできるかを考えてみることが、SDGsと事業を結びつける経営戦略の基本的考え方かなというふうに思っております。
他業界にも適用できる考え方という意味では、まさにそういうSDGsのトレンドを社会・経済的な観点で経済価値に変わる潮目を読んでいくということが大事かなと思っています。
学校法人OCC https://www.occ.ac.jp/学校法人OCCは、大阪市阿倍野区に本拠地がある短期大学と幼稚園と保育園を経営。歴史としては神学校として開学して118年、短期大学として71年、聖愛幼稚園として96年の伝統がある。SDGs実現のための10年の計を策定し、日本で初めての教育テックコースを23年4月に開設し、24年4月より教育テックの専門職大学院の設置準備をし開設予定。
グローバルでの人材紹介・派遣、および、留学生寮の管理の高度化のために、株式会社バリュー・スタッフと戦略的提携をし、子会社化して、グループとして、「人財育成・紹介業」、「人財育成・派遣業」という新しい業種を生み出そうとしている。
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SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。