工場から製品を出荷する、原材料を調達する、消費者に商品を届ける。事業活動における物流は、血液のように欠かせない存在です。その物流業界ではかねて人手不足や長時間労働の課題が指摘されてきましたが、最近では「物流クライシス」とも呼ばれる困難の真っただ中にいます。
なぜなら、運転手の労働時間が規制される「物流の2024年問題」が迫っているためです。国土交通省によると、この問題で何も対策を取らなかった場合、2024年度の輸送能力は約14%、2030年度には約34%が不足する可能性があります(※1)。国は物流効率化に向けた実証実験を各地で実施しているほか、「置き配」を選んだ消費者にポイントを付与するなどの緊急対策にも着手。民間でも業種や企業の垣根を越えて共同配送を始めるなど、新しい動きが続々と生まれています。
端緒となった「働き方改革関連法」の中身
「物流の2024年問題」がクローズアップされた発端は「働き方改革関連法」です。2024年4月から、トラックドライバーらの時間外労働に上限規制が適用され、年間960時間に。併せて、労働時間と休憩時間を合計した拘束時間も上限が短くなります。
対象の業種は自動車運転業務(ドライバー)だけでなく、同じく労働時間が長くなりがちだった「建設事業」や「医師」なども含まれます。いずれも、上限規制適用の猶予が2023年度末をもって終了。建設現場の工期のひっ迫や、診療体制への影響が取りざたされています。
建設業への影響については以下のコラムをご覧ください。
建設2024年問題を考える
荷主企業にも影響が? 想定されるリスクは
その中でも「物流の2024年問題」がメディアや政治の場でよく取り上げられるのは、裾野が非常に広く、事業者にも消費者にも影響が及ぶためです。物流が停滞し、これまでと同じようにモノを運べないとなると、さまざまな混乱や制約が生じるでしょう。
直接の対処が求められるのは、車両を所有している運送事業者だけではありません。例えば荷主企業にとっては、従来の輸送依頼を断られたり、必要なモノの到着が遅くなったり、輸送コストが上昇したりなどのリスクも想定されます。倉庫業でもオペレーションの変更を迫られるかもしれません。
ソフト面とハード面から考えるソリューション
自社の課題を解決して「物流の2024年問題」を乗り越えるためには、中小企業でも着手しやすいものも含め、さまざまなソリューションが考えられます。
人材確保と離職防止へ、職場環境の向上を
全日本トラック協会によると、貨物自動車運転者の有効求人倍率は2023年4月時点で全職業より1ポイントほど高く、慢性的に人手が不足しています(※2)。輸送力を維持するには増員が必要ですが、理想通りに確保するのは容易ではないでしょう。労働時間が減ることで賃金水準が下がる可能性も考慮すべきです。そのためにも、労働環境の改善は避けて通れません。労働負荷や賃金、福利厚生といった現状について見つめ直し、働きやすく魅力がある環境を目指しましょう。
徹底した輸送効率化に向け、あらゆる検討を
働き方改革をする上では、輸送の効率化に向けた検討も欠かせません。国土交通省の「総合物流施策大綱」(※3)では、機械化・デジタル化を通じて物流のこれまでのあり方を変革し、日本産業の国際競争力を強化するものとして「物流DX」を提唱しています。一例として、倉庫など物流施設でのロボット導入や自動運転などを通じて、サプライチェーン全体の最適化を目指すことが紹介されています。
これよりもハードルが低そうな例も挙げられています。
従来は対面で行っていた運行管理者とドライバーの点呼にICTを活用し、遠隔化・自動化できます。複雑な配車計画・ルート選定・運送伝票のデジタル化、予約システムの導入も有効です。荷待ち時間が長い商習慣の見直しや、バラ積み・バラ卸しのパレット化、荷物を満載にしてリードタイムを延長するといった改善策は、高額な設備投資をせずとも実現できるでしょう。
徹底した効率化は運送業者だけで実現せず、荷主企業の理解や協力が必要になるケースも多々あります。自社の売上減少や過度な輸送コスト増といったリスクを抑えるべく、サプライチェーン全体で知恵を絞りたいものです。
(※1) 国土交通省資料「物流の2024年問題について」
(※2) 全日本トラック協会ウェブサイト「知っていますか? 物流の2024年問題」
(※3) 国土交通省「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)概要」
SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。