“右から左”は通用しない、サステナビリティで変わる専門商社ビジネス

ニューラル夫馬氏

ニューラルCEO/信州大学特任教授 夫馬賢治
サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。東証プライム上場企業や大手金融機関をクライアントに持つ。スタートアップ企業やベンチャーキャピタルの顧問も多数務める。著書『ネイチャー資本主義』(PHP研究所)、『データでわかる 2030年 地球のすがた』(日本経済新聞出版)、『ESG思考』(講談社+α新書)他。国連責任投資原則(PRI)署名機関。世界銀行や国連大学等でESG投資、サステナビリティ経営、気候変動金融リスクに関する講演や、CNN、フィナンシャル・タイムズ、エコノミスト、ワシントン・ポスト、NHK、日本テレビ、テレビ東京、TBSラジオ、日本経済新聞、毎日新聞、フォーブス等メディアからの取材も多数。ニュースサイト「Sustainable Japan」編集長。ハーバード大学大学院リベラルアーツ(サステナビリティ専攻)修士課程修了。サンダーバードグローバル経営大学院MBA課程修了。東京大学教養学部(国際関係論専攻)卒。


鉄鋼から機械、半導体、化学品など、さまざまな商品を扱う専門商社。メーカーなどと違い、SDGsにどう取り組むべきか、戸惑いの声も聞かれる業界です。そこで、サステナビリティに豊富な知見を持つニューラルCEO/信州大学特任教授の夫馬賢治氏に、専門商社が取り組むべきSDGsについて、話を聞きました。

専門商社が果たすべき役割とは?

特定の分野や商品において、素材など「川上」から、最終製品のメーカーや小売業などの「川下」までのサプライチェーンの中で、買い手と売り手をつなぐ専門商社。鉄鋼、機械、半導体、化学品、食品、医薬品……と、モノが動くあらゆる分野で専門商社が活躍しています。

中には、業界で確固たる地位を確立し「半年先まで受注で埋まっている」という専門商社もあるでしょう。しかし、必ずしも安泰ではありません。今後サプライチェーンを巡る大きな変化にあらゆる業界が直面するからです。

最近では大企業の間では、SDGsという言葉は使われなくなり、サステナビリティという用語に置き換わっています。背景には、SDGsで掲げられた17個の目標そのものを意識することではなく、企業が将来の収益性に大きな影響を与える環境・社会課題を見定め、事業そのものを変革する必要があると理解されてきたからです。

実際に日本の大企業では、事業内容を抜本的に変革させるため、環境課題や社会課題を解決していくために大胆な中長期目標を掲げ、その達成のために代替商品を開発したり、素材を変えたりといった動きも出ています。当然、変更の対象となる商品や素材を納めている企業へのインパクトは大きくなってきます。専門商社はこうした大企業の動きを捉えて、今後どんな商品を提供していくべきか、取引先の中堅・中小企業に情報提供していく役割が求められています。

取引先のさらに先「変化の源流」を注視

特に影響が大きいのが、サプライチェーンの川下に大企業が存在しているケース。例えば今、大手スーパーやコンビニエンスストアは、扱う商材の中身だけでなく、パッケージの素材についても「二酸化炭素排出量の少ない素材か?」といったサステナビリティの視点を考慮するようになりつつあります。こうした変化を察知せず、従来どおり右から左にモノを流していたら……。いつの間にか取引先の商品の競争力がなくなり、大手量販店で取り扱ってもらえなくなったという事態が生じる可能性が出てきます。実際、大手コンビニエンスストアがプラスチック製フォークを廃止するなど、大きな動きもありました。

BtoBの工業製品や建設業界でも構図は同じで、サプライチェーンの川下にある大企業のサステナビリティへのアクションは始まっています。最近では「カーボンニュートラル」を標榜する企業が増えてきていますが、最終ゴールは、全ての取引先を含めてカーボンニュートラルを実現するということです。そのため、自動車メーカー各社は、サプライヤーに対し、カーボンニュートラルの実現を要請する説明会を始めています。しかし、大企業と直接的な取引関係がない企業には、このような情報が伝達されず、対策が遅れていってしまいます。対策が遅れると、その企業は競合との競争に敗れ、事業が衰退してしまいます。そうすれば、部材を提供している専門商社の売上も落ちていってしまいます。

では、サプライチェーンの川下ではなく川上に大企業がいる場合ではどうでしょうか。やはり専門商社の役割は大きいです。例えば昨今、大手素材メーカーは従来型のプラスチックに代わる製品をはじめ、再生素材やバイオ素材などの新製品をコスト競争力のある形で出すようになりました。しかし、そのような新素材の情報を知らなければ、商品開発のチャンスを逃してしまいます。そうならないようにするために、川上の大企業が仕掛けてきた新素材情報を専門商社が把握し、積極的に顧客に提案していくことが欠かせません。それが専門商社自身にとって事業価値になり、売上増加につながっていきます。

川下にしても川上にしても、大企業の方針転換はサプライチェーンに関係している企業に大きなインパクトとなります。たとえ直接の取引がなくても、専門商社としては、取引先のさらに先にいる大企業、すなわち「変化の源流」となっている新たな業界基準を把握し、取引先の中堅・中小企業に伝えていく必要があります。

専門商社がサステナビリティ関連情報のハブに

情報収集の秘訣とサステナビリティのこれから

では、どう情報収集をするか?

実は、専門商社向けには、すでにさまざまなチャネルで情報は飛び交っています。業界紙はもちろんのこと、業界EXPOなどのイベント、ウェビナー、各種パンフレット……、意外に見過ごしている方も多いのではないでしょうか?アンテナを立てて、流れている情報をキャッチするだけで相当な量になるはずです。

サステナビリティに関連した企業の動きとしては、日本では「カーボンニュートラル」が先行していますが、これからは、生態系や人権問題も重要テーマになります。今や日本企業にとって外国人労働者は不可欠な存在になりつつありますが、不当な条件で外国人労働者を雇っている企業については、近い将来、大企業との取引が難しくなる可能性があります。

専門商社のビジネスという意味では、発注すればモノが確実に届くという状況ではなくなった業界もあります。医薬品業界では、中堅ジェネリック医薬品メーカーの製造工程での不正に端を発し、複数のメーカーで業務停止命令が出たことで、医薬品の供給が大幅に減少しました。半導体は自動車用や産業用などを中心に需給がひっ迫し、サプライチェーン全体に影響を与えています。発注先からの納品を確実にするためには、発注先の企業のサステナビリティにまで関与していく必要が出てきています。

川上と川下をつなぐビジネスである専門商社には、自社のみならず、サプライチェーン全体をサステナブルにするためのカギとなる役割が期待されています。取引先へ有意義な提案をできるよう、日々の情報収集に努めていただきたいと思います。

SDGsについて、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年12月15日時点の内容となります。
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