頭を悩ませる人件費、どう抑える?

収益性向上へ、どの経理担当者にとっても経費は削減したいもの。ただ悩ましいのは、企業の将来を左右する人件費です。人手不足で賃上げの圧力が高まり、人材獲得競争が激しくなる中、人件費の扱いは難しいテーマです。不用意に手を付ければ退職やモチベーション低下に直結します。成長の源泉となる人材に必要な手当をしつつ、人件費を適切にコントロールするために、何に気を付けるべきでしょうか?

多くの企業が総人件費の上昇を見込む

帝国データバンクの意識調査(※1)では、2022 年度に賃金改善を見込む企業は 54.6%となり、2 年ぶりに半数を超えました。同年度の総人件費についても 67.1%の企業が上昇を見込み、前年度から大幅に増加しました。賃金を改善する理由としては、人手不足感の高まりを受けた、「労働力の定着・確保」が最多でした。政府は「人への投資」を促し、税制面でも賃上げを後押ししているため、今後も賃上げ基調が続く可能性があります。

重くのしかかる人件費。その割合は少なくない

企業としては人件費の負担感は悩みの種です。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」のデータ(※2)によると、売上高人件費比率の2021年度平均(金融・保険業を除く)は14.3%。数多くの経費が発生する中、人件費のウェイトは小さくありません。

ただ人件費がかさむからといって、採用や育成をためらうと、後々の企業競争力に影響します。変化に対応したり、新たなサービスや価値を創出する上で、主体的で意欲的な人材は欠かせません。給与・賞与、諸手当のカットは不安を招き、士気低下につながります。むしろ優秀な人材を得るために「人への投資」は避けては通れないでしょう。

無駄な人件費が発生していないかをチェック

真に必要な人件費を確保するためにも、まずは無駄な人件費が発生していないかを見極めたいところです。分かりやすい例が「残業」です。

「ダラダラ残業」がはびこっていないでしょうか。「残業は仕方がない」というマインドが染みついていると、業務の優先度を考えずにパフォーマンスが下がり、活力まで失われかねません。残業を減らす雰囲気づくりや意識改革も必須です。

特定の部署や従業員に残業が集中していれば、組織全体を見渡し、業務を棚卸ししてみましょう。その結果、作業フローや分担の見直しができれば、全体としての残業の削減や業務の平準化につながる可能性があります。人員配置を変えることで、生産性が高まるかもしれません。

業務の効率化ができないか検討を

並行して考えたいのは、業務にかかる手間を減らすことです。業務効率化というと、最近ではDX(デジタル・トランスフォーメーション)が思い浮かぶかもしれませんが、そこまで一足飛びに目指さずとも、業務効率化をかなえる手段は多くあります。

例えば、パソコンで行う定型的な事務作業を自動化できるソフトウェア技術「RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)」については、さまざまなツールが誕生しています。また社内の経営資源を一元管理できる「基幹業務システム(ERP)」があると、どの業務にどれだけの人件費がかかっているのかを可視化できます。ITシステムの管理には、仕様変更やメンテナンスといった要員が必要になりますが、そこにクラウドを活用することで、少人数で対応することも可能です。

身近でイメージしやすい手段としては、ペーパーレス化があります。新型コロナウイルス禍では「はんこ出社」「郵便物のための出社」が注目されました。紙に由来する作業は捺印、印刷、ホチキス留め、郵送、保管など多岐にわたり、人手とコストを要します。

書類などの情報がデジタル化されると、データを管理・活用できるようになります。例えば広義の人件費を減らすには、旅費や交通費がかからないリモートワークが役立ちます。その際、遠隔でもコミュニケーションでき、社内のスケジュールやタスク、ファイルを共有できる「グループウェア」があれば心強いでしょう。

業務効率化で余力ができたリソースを、生産性を上げたり、新規事業を開発したりと、収益性を高める業務に振り向けたいところです。

(※1) 帝国データバンク「2022 年度の賃金動向に関する企業の意識調査」(2022年2月10日発表)
(※2) 独立行政法人労働政策研究・研修機構「主要労働統計指標」(2022年9月22日更新)

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年2月24日時点の内容となります。
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