社長、経理部長必読!従業員に不正をさせない組織づくりとは

島田弁護士

弁護士 島田直行(しまだ なおゆき)
島田法律事務所代表弁護士。山口県弁護士会所属。

「中小企業の社長を360度サポートする」をテーマに “社長法務”と称する独自のリーガルサービスを提供。労働事件、悪質クレーマー対応、相続を含めた事業承継をメインに経営者のあらゆる悩みに耳を傾ける。著書に「社長、辞めた社員から内容証明が届いています」(プレジデント社)、「社労士のための労働事件 思考の展開図」(日本法令)他多数。


不正行為が中小企業に与えるダメージは大きいもの。日頃から、不正が起きない組織づくりに注意を払うことが肝要です。中小企業で起きる不正に詳しい島田直行弁護士に、経営者や経理部長はどんな点に気をつけるべきなのか、話を伺いました。

「1人に任せきり」は厳禁

「社員を信頼しているから、ウチは大丈夫」――。そう言い切る経営者も少なくありませんが、そもそも不正が発覚するのは氷山の一角だという印象を持っています。多くの不正は、経理担当者が変わる、税理士が変わる、といったタイミングで偶然、見つかるものです。逆に言えば、こうしたイベントがなければ、発覚しないまま年月が流れる、ということになります。水面下で不正が起きているけれど、まだ経営陣に見えていないだけ、という可能性は大いにあります。

4人に1人が不正行為を見聞きしたことがある

最近ではハラスメント研修などに熱心な企業は多いですが、不正については、学ぶ機会がほとんどないのが実態で、いざ不正が起きてから慌てふためくことになります。日頃から不正が起きにくい組織にしておく心がけが会社を守るのです。

そのためにはまず、特に経理部門の仕事を1人に任せきりにしないということです。どの作業も複数人が従事するようにしたり、ジョブローテーションをしたりという工夫を考えると良いでしょう。不正の温床となる属人化を避けるのです。

不正防止に有効な就業規則改定

また、不定期の通帳検査や、会社のパソコンの内部を社長や経理部長などが確認できる体制を作っておくことも重要です。会社が必要に応じて所持品を検査したり、貸与しているパソコンをチェックできるように、就業規則を変えておきましょう。

ワークフローの可視化のために、クラウド化を進めるのもいいでしょう。また、パソコンチェックのためにはパスワードが必要になりますから、しっかり把握しておくことが肝心です。

もし不正が疑われるような場合は、自宅待機を命じることができるようにするなど、不正調査を円滑に進められるような就業規則に改定しておきましょう。

こうした作業は会社経営にとって重要なことですが、緊急度は低いですから、つい後回しにしてしまいがちです。しかし、平時にしっかり取り組んでおくことで、大きな被害を未然に防ぐことにつながります。

また、会社の印鑑は経営者がしっかり管理しておきましょう。

日々のコミュニケーションの大切さ

不正を働くのはとんでもない悪人かというと、必ずしもそうではありません。私がご相談を受けた経験から言うと、動機で一番多いのは、「子どもの教育資金の捻出」。派手に遊んだあげくの犯行、というケースも一部にはあるのですが、多くは生活苦がきっかけになるのです。

また、生活苦に加えて「妬み」も動機になり得ます。自分は中小企業のイチ経理部員で給料も高くない。社長や経理部長の子息はいい塾に通っているのに、うちは塾に通わせる余裕がない。同じ年齢で同じ学校、しかもうちの子の方が成績はいいのに…。こうした妬みの感情がきっかけで不正に手を染めるケースが多いのです。

もちろん社長や部長は単に高い給料を得ているわけではなく、相応の苦労もあるでしょう。しかし、日頃からコミュニケーションをしていないと、そうした本当の姿が見えません。また、良好な人間関係が築かれていれば、そのこと自体が抑止力になるのは言うまでもありません。

多くの会社では「コミュニケーションが大切」という通念はあると思いますが、しっかりそのことをシステム化しているでしょうか? つまり、漠然と「コミュニケーションを取っています」ということではなく、「月に1回はランチに行く」「週1回は15分程度の面談をする」というように、制度化をして取り組んでいくのです。

また、私の経験では、社長が先端の組織論に飛びつくなど、経営方針がコロコロ変わるような会社は不正が多い印象です。現場をよく見ないまま、理念ばかりを優先して組織づくりや人事考課の仕組みづくりを急ぎ、「うちの社員はレベルが低すぎて私について来れない」などと考える社長の下では、社員の不満は相当溜まっていると考えるべきです。そしてその不満が、不正の温床となるのです。

不正防止のためには、就業規則を改定したり、業務分担を見直すなどの現実的な工夫はもちろん必要となるのですが、人間関係に問題がないかどうかをじっくり考えてみることも非常に重要です。

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上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年12月22日時点の内容となります。
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