田中浩一郎 (たなか こういちろう)
フロンティア・マネジメント(株) マネージング・ディレクター
インダストリアル・ストラテジー&オペレーション部門長
2012年入社。フロンティア・マネジメント(株)では、自動車部品、民生機器、電子部品、生産財、建設・建材(メーカー、商社)などの企業に対する事業計画/M&A戦略策定・実行支援、中堅製造業におけるグローバル営業統括組織の構想・立ち上げ支援、他社との協業を含めた新規事業構想・実行支援、民生機器の事業撤退支援・事業再生支援など、企業の成長から撤退・再生まで幅広いプロジェクトに従事。慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了、ATP(事業再生士補)。
コロナ禍ではサプライチェーンの混乱や原材料インフレで苦戦し、将来的には電気自動車(EV)による大変革期がやってくる自動車部品業界。経営の見直しにどう取り組むべきかについて、自動車部品メーカーへの豊富なコンサルティング経験を持つ、フロンティア・マネジメントの田中浩一郎氏に話を聞きました。
自動車部品業界を取り巻く環境
2020年から数年にわたって、新型コロナウイルス感染症拡大によるサプライチェーンの混乱、ウクライナ危機に伴う資源高騰等さまざまな要因により、インフレが進行しています。自動車部品業界では半導体不足の影響が大きく、国内自動車メーカーの生産台数は低迷しました。半導体不足の影響は出口が見えつつありますが、原材料インフレはまだ高止まりの状況が続いています。
このように足元の厳しい中ではありますが、日本でも本格的にEVにシフトする動きが始まっています。下図のように、今までのところ、日本は世界と比べるとEVの普及率は低いといえますが、2027〜2028年頃からはEVシフトが加速していく可能性があります。
さらに先行きの不透明感から、人材採用に苦戦する自動車部品メーカーも少なくありません。
製品別損益は出せていますか?
こうした状況下で自動車部品メーカーが生き残るためには、まず自社の製品別損益を把握する必要があります。中小部品メーカーだけでなく、売上規模1,000〜3,000億円ほどの中堅部品メーカーであっても、製品別損益を正確に出せていない会社は少なくないです。どう見積もっていて、どの部分の原価が上がったのかなど、OEMとの単価改定に向けてエビデンスを出せていません。長年、単価改定をするという文化に乏しい業界であったことから、「労務費のレートは20年前のものを使っていた」というようなケースもあります。製品別損益は年1回などではなく、月次などタイムリーに出す必要がありますが、人員不足もあり、手が回っていない印象です。
こうした詳細をしっかり把握してからでないと、「打ち手」を考えても上手く運びません。たとえば、OEMメーカーとの価格交渉で単価改定を申し入れる際に、改定幅が適正であるという根拠を示せなければ、OEMメーカー側からの承諾を得ることができません。OEMメーカー側からみれば、申し入れのあった単価改定について、その改定幅が適正かどうかを評価することは難しいはずです。
また、単価改訂のような「守りの打ち手」以外にも販路拡大や新ビジネスの展開といった「攻めの打ち手」も考える必要があります。たとえば、エンジン部品メーカーであれば、建設機械、産業機械、農業機械など、共通する部品があるため、販路拡大の候補になりえます。ただし、すぐに形になるとは限りませんし、最初はボリュームが少ないため、「守りの打ち手」も並行して進めていく必要があります。
廃業も含めた選択肢を考えておく
仮に販路拡大を目指すにしても、競争も激しく、必ず成功するとは限りません。自社の財務について、必要であれば取引銀行の力なども借りてしっかり精査し、場合によっては廃業という選択肢も考える必要が出てくるかもしれません。
フロンティア・マネジメントの手がけたケースでも、新規事業への転換が厳しく、従業員やオーナーファミリーの利益を考えると、廃業がベストの選択肢だと考えられるケースがありました。持っている不動産の内容によっては、不動産業に転換するという道もあるかもしれません。
いずれにしても、経営が行き詰まってから銀行やコンサルティング会社などに駆け込むということは、土壇場まで追い詰められてからでは打ち手が少なくなるため、避けるべきです。
日本でEVシフトが本格化するまでには、まだ時間がありますが、今のうちに方策を考えておく必要があります。そして、どのような方策を取るにしても、まずは自社の現状を正しく把握することが必要になります。
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