創業社長が40代のうちに準備しておくべき3つのこと

日本政策金融公庫総合研究所の調査(※1)によると、起業する年齢は30代から40代が全体3分の2を占めており、起業する平均年齢は1998年以降、40代前半で推移しています。現在40代の創業社長というと、会社を興して7〜10年くらいにあたる頃でしょう。起業したその日から事業の構築、従業員の採用や資金繰りと、目の前のことしか考えられない日々が続き、創業時は自転車操業だったと振り返る方も多いのではないでしょうか。しかし、ふと気づくと従業員が増えて、創業時の従業員が1人もいなくなった。社長である自分が詳しく分からない案件が目につく。そんなことはありませんか?社内が回り始めた今だからこそ、未来のために準備をしてみましょう。

企業存続の目的と理由

将来の事を考えると、もっと売上を伸ばしたい、取引先を増やしたい、などは社長にとってのわかりやすい夢です。だからといって社長と同じ目標を従業員が持てるとは限りません。従業員は社長ではないからです。では、どうすれば従業員はやりがいを持って働いてくれるでしょうか。
「経営学の父」とも呼ばれたピーター・ドラッカーはその著作の中で組織における「ミッション」・「ビジョン」・「バリュー」の重要性を示しました。ミッションは「企業や団体の社会的使命」を定義したものです。「企業理念」として公表している企業もあります。

実際の企業の例を見てみましょう。タイガー魔法瓶のミッションは温もりあるアイデアで、食卓に新たな常識をつくり続ける。(※2)です。創業者が幼少の奉公生活の中で想い描いた母親がいれてくれた、温かなお茶が飲みたいという「温もり」への憧れが原点にあります。かつては贅沢品だった魔法瓶は日常品となり、食卓に新しい「当たり前」を作っています。

企業だけでなく、省庁でも独自のミッションを持っていることがあります。特許庁ではミッションを使命・目的・存在意義と定義した上で、“知”が尊重され、一人ひとりが想像力を発揮したくなる社会を実現する。と掲げています(※3)

あなたの会社の社会的使命はなんでしょうか?従業員が事業を通して社会貢献している実感を持ち、やりがいを持って能動的に働くためにミッションを定義してみましょう。

そして、ビジョンはミッションをより具体的な目的にしたものです。どのようなビジョンを持てば、ミッションが叶えられるでしょうか。

前出のタイガー魔法瓶では世界中に幸せな団らんを広める。として、人の絆を深める食卓という場所を中心に、製品やサービスを日本、世界に届けていくとしています。

また、特許庁ではミッションのために組織は何を成すのかとビジョンを定義した上で、産業財産権を通じて、未来を拓く「知」が育まれ、新たな価値が生み出される知財エコシステムを協創することで、イノベーションを促進するとしています。

バリューに応じた人事・財務プランを

ミッションで社長と従業員の心を合わせ、ビジョンで目的が整うと、自社の価値や従業員の行動基準であるバリューを考える段階です。

バリューは会社の強みに合ったもの、従業員が使命として感じられるようなものであることも大事です。考える際には社長と従業員が共に考える、もしくは従業員自らに考えてもらうと、従業員の納得度が高まり、行動に移しやすいでしょう。

ここでもタイガー魔法瓶を事例としてあげると1.本質をきわめた独創性。2.誠実をきわめた信頼性。の2つを掲げています。創業当時、割れやすく、壊れやすい魔法瓶が少しでも長く、愛されるように様々な工夫を凝らしていました。現在でも、お客様のために独創的な工夫の積み重ね、愚直なものづくりへの取り組みで「タイガーなら安心」と思っていただくことを、一番大切な価値としています。

また、特許庁ビジョンのために職員はどのような指針で行動・判断するのかとバリューを定義し、・透明性をもって、公正、公平に実務を行う・ユーザーの立場で考える・前例にこだわらず、改善を続ける・プロフェッショナルとして主体的に行動する・特許庁全体の視野に立つとしています。


これまでみてきたように、ミッション・ビジョン・バリューは「自社の事業を通じてどのような社会を目指し・どのような方法で・どのような価値を提供するのか」ということを従業員はもちろん、社外にもわかりやすく説明するツールとなります。採用時や営業時にも使えますし、従業員の定着率向上にも役立つことでしょう。

3つも考えるのは大変だと感じる場合、必ずしも全てを決める事にこだわる必要はありません。大切なのは、従業員が一丸となって同じ方向に向かうこと。船頭である社長が自社の行先を明確にすることで、従業員も安心してその船に乗り続けていられるのです。「この船は社会的使命を持って進んでいる」と感じることができた従業員は社長と一緒にオールを漕いでくれることでしょう。

長きにわたって会社を存続させるためには、売上高や取引先数といった目先の数字よりもまず社長や従業員が皆で見る将来のあるべき姿が必要不可欠になります。従業員が自社に誇りを持ちながら毎日の仕事をできるよう、会社はミッションを持ち、ミッションを実現するためにビジョンやバリューを整えることが社長の次なる10年を支えてくれるのです。

※1 日本政策金融公庫総合研究所「2021年度新規開業実態調査」
※2 タイガー魔法瓶 企業理念
※3 経済産業省「特許庁の新しいミッション・ビジョン・バリューを公表します」

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2022年6月17日時点の内容となります。
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