年金受給の空白期、従業員を安心させる戦略とは

公的年金の支給年齢が段階的に引き上げられ、2030年度には男女とも65歳となります。60歳定年の企業の場合、従業員は年金受給まで無収入の期間が生じます。これを埋めるため、現在行われている65歳までの継続雇用制度に加え、2021年に改正された高年齢者雇用安定法では、70歳までの就業確保が努力義務として企業に求められました。
とはいえ、少子高齢化が進み続ける中、年金支給年齢のさらなる引き上げも懸念されます。また、年金だけでは老後の生活費を賄うには不十分なことも周知の事実です。
これらの問題を解決する選択肢として企業年金の導入があります。従業員に安心感を与えられますし、雇用の安定にも寄与できる方法です。今回は、年金支給までの生活費の不安をなくし、老後の暮らしを安定させる企業年金について解説します。

老後の安心感を生む企業年金

まず、老後に必要とされる資金と年金支給額について、夫のみが就労した高齢夫婦を例に試算してみましょう。(※1)

公的年金の状況

試算では、夫婦世帯の毎月の生活費は27.1万円です。60歳で定年を迎え、65歳から年金を受給すると仮定すると、5年間の生活費は1600万円余り必要です。
一方、公的年金の受給額は月22万円。すべてを生活費に充てても毎月5万円ほどの不足が生じます。さらに、趣味やレジャー、旅行を楽しみ、ゆとりある老後生活を送ろうとすると月36.1万円必要で、不足額は14万円にものぼります。定年後に約30年暮らすことを考えると、その差は実に5000万円に達します。

これらの差額をどのように埋めていけばいいのでしょうか。大切なことは、現役のうちに資金準備を完了させることです。定年を迎えてから考えても、仕事を辞めて給与もボーナスもなければお金を貯められません。そこで、不足分を賄う柱のひとつに企業年金があります。自身の貯蓄に加え、公的年金の補完として企業年金があれば、老後の安心感は格段に大きくなります。

多様なニーズに対応、人材定着にもプラス

公的年金の不足分の補填以外にも、企業年金は従業員の働き方や暮らし方により、さまざまな活用方法があります。

企業年金制度に求められる役割(例)

上図のように、年金受給開始までの生活費を補填する「つなぎ年金」として活用できれば、従業員の定年後の心配を緩和できます。退職時に一時金として受け取れば、住宅ローンの返済などに充てられます。

また、若手社員の早期離職や採用難による人材不足が続く中、ベテラン社員の引き止めが課題という中小企業もあるでしょう。企業年金は解決策の一つとして有効です。

導入が進む企業型DC

では、具体的にどのような企業年金制度があるのでしょうか。制度開始以来、加入企業が増えているのが企業型確定拠出年金(企業型DC)です。毎年2,000〜3,000社ペースで増加しており、2022年3月末時点では前年から約3,500社も増加。42,669社が導入し、加入者は782万人に上っています(※2)大企業だけでなく、中堅・中小企業でも導入が進んでいます。

企業型DCは企業が掛金を拠出し、従業員が自ら運用して資産形成を行う制度です。原則60歳まで引き出せませんが、掛金には課税されず、運用益も全額非課税。長期にわたり無理なく取り組め、現役世代が老後の資産を形成するのに有効な制度と言われています。

もちろん、運用成績次第で将来の年金額に増減が生じます。このため企業は従業員に運用知識を学ぶ機会を提供することが求められます。ちなみに企業年金連合会のデータでは、制度導入からの平均運用利回りは年率3.8%と堅調です(※3)

掛金は企業負担となるため、新たな負担に及び腰の企業もあるでしょう。この場合、退職金制度がある企業ならその一部を移行する、あるいは給与の一部を掛金に充当できるよう従業員に選択してもらう制度設計も可能です。

従業員の老後を考えて導入を

企業年金は公的年金支給までのつなぎ資金としても、年金を補完する制度としても有用で、従業員が安心して老後を迎えられる制度です。企業への帰属意識やモチベーションを高めるほか、経験豊富なシニア従業員の処遇という点でも大きな意味を持ちます。「意義は理解したが、どこから始めたらよいのか」と思い立ったら、金融機関など信頼できる専門家に相談してみましょう。

(※1)図版は以下の資料をもとにりそな銀行が作成

(※2)厚生労働省 確定拠出年金制度「企業型年金の規約数の推移」(規約数、事業主数、企業型年金加入者数)
(※3)企業年金連合会「確定拠出年金実態調査結果(概要版)」(2023年3月23日)

企業年金について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年9月1日時点の内容となります。
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