賃上げが財務に与える影響、しっかり精査していますか?

賃上げで見落とされがちなポイントとは?

バブル崩壊後のデフレが長期間に及んだため、「物価は安定している」「賃金は上がらない」ことがある意味、当たり前だった日本ですが、ここに来て世界的インフレの影響を受けて賃上げ機運が高まっています。

従業員の生活レベルを維持するため、そして優秀な人材を確保するためにも、賃上げはもはや待ったなしですが、それが財務に与える影響を正しく把握できているでしょうか?

というのも、賃上げ(定期昇給やベースアップ)は、毎月支払う賃金総額が増えるだけの話ではないのです。

退職金・企業年金制度の制度設計によっては、退職金や確定給付企業年金(DB)の給付額、確定拠出年金(DC)の掛金額にも影響しますし、退職給付会計にも影響します。つまり、賃上げは退職金・企業年金制度への影響を通じて、損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)に、より大きな影響を与えるのです。賃上げを決断する際には、こうした影響についても精査する必要があります。

賃金の話ではありますが、人事部だけでなく、財務部や経営陣もしっかり把握しておくべきです。では、具体的に何を見ていけばいいのか、要点を解説していきましょう。

ポイント1――自社の制度設計はどのタイプに当たるか?

(1)退職金額・DB給付額・DC掛金額への影響

DBの給付額、退職金額、そしてDC掛金額への影響について考えてみます(上図参照)。DBの給付額と退職金額が賃上げの影響を受けるのは、「累計給与比例制度」と「最終給与比例制度」を導入している企業です。DCについても、給与に比例する制度の場合、影響を受けることになります。つまり、いずれの場合でもポイント制や定額制を導入していれば賃上げの影響は受けませんが、給与に比例する制度を導入していれば、影響を受けるということです。ちなみに、給与比例の制度であっても、賃上げの対象とならない給与を用いている場合は当然影響を受けません。

日本企業はかつて、圧倒的に給与に比例する制度が多かったのですが、近年はポイント制に移行する企業も増えています。とはいえ、まだまだ給与比例制度を採用している多くの企業が賃上げの影響を受けるとみられます。

ポイント2――退職給付会計への影響

次に、退職給付会計について見てみましょう。ポイント1で「影響あり」となった企業の場合、下の図にあるように、DBと退職金については、今後の引当てが増加するだけでなく、賃上げにより債務が増加し、過去分に未引当部分が発生することになります(最終給与比例制度の場合に影響顕著)。未引当部分は手当が必要ですが、簡便法を採用している場合は、単年度で引当てる必要があるため影響を強く受けます。DCについても、掛金額の増加分について、今後の退職給付費用が増加します。

つまり、BSにおいては退職給付引当金が増加しますし、PLにおいても退職給付費用が増加し、営業利益が影響を受けることになります。

(2)退職給付会計への影響(賃上げの影響がある制度)

※1 賃上げする給与を使用する場合
※2 最終給与比例制度の場合に顕著

ポイント3――キャッシュアウトへの影響

最後に、「影響あり」のケースで、具体的にどのようなキャッシュアウトが生じるかを見てみましょう。まずは、当然ですが退職時に支払う退職金の金額が増えます。また、今後のDB、DC掛金が増加するという影響もあります(下図参照)。

(3)退職給付キャッシュアウトへの影響(賃上げの影響がある制度)

※最終給与比例制度の場合に顕著

賃上げに伴う、毎月の賃金支払増によるキャッシュアウト増加を気にする経営者が多いのは当然ですが、実はそれだけでなく、退職金や企業年金に関連したキャッシュアウトも増加するのです。

賃金引上げが退職給付に与える影響と対策について、資料にまとめていますのでこちらもご参照ください。

賃金引上げが退職給付に与える影響と対策
リンククリックで「賃金引上げが退職給付に与える影響と対策.pdf」がダウンロードできます。

賃上げは退職給付会計も含めた会社の財務全般に影響を及ぼすもの。しかし、今や賃上げに後れを取れば、優秀な従業員を確保できないなど、競争力が削がれてしまう恐れもあります。したがって、「こんなにBSやPLに影響があるなら、賃上げをしたくない」といった後ろ向きな考え方をするのではなく、退職金・企業年金制度全般への影響をしっかり把握し、必要に応じて制度を見直すといったアプローチが求められるのではないでしょうか。

ぜひ、人事部任せではなく、経営者自らが主体的に関与し、賃上げ時代にマッチした制度を検討していただきたいと思います。りそなグループでは、制度全般についての評価や、見直しに関するコンサルティングなど、幅広いサービスでお客さま企業をサポートする体制を整えています。さらに詳しく影響を知りたい場合、お気軽にお近くのりそな銀行の支店にご相談ください。

企業年金について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2023年8月10日時点の内容となります。
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