昨今、オフィスに投資をする企業が増えています。オフィスは単なるコストセンターではありません。良いオフィスには、業務の効率向上を後押ししたり、従業員のエンゲージメントを高めるという効果があるのです。多くの企業にCRE戦略を提案してきた実績を持つ、中央日土地ソリューションズのアドバイザリー部でエグゼクティブアドバイザーを務める石川聡さんに、オフィスについてお話を伺いました。
石川 聡
1991年東京都立大学理学部卒。同年日本土地建物入社。鑑定評価業務、CREコンサルティング業務に従事。2021年4月から現職。
鑑定評価業務においては工場財団等の施設評価、産業再生機構案件等の企業再生案件を担当。現在は企業再生関連評価の経験を生かし、企業向けCRE戦略構築コンサルティングを担当、CRE戦略関連の講演、執筆多数。グロービス経営大学院修了(MBA)、不動産鑑定士、不動産カウンセラー、日本証券アナリスト協会検定会員、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、中小企業診断士
「人」の観点からのオフィス見直しが増えている
2020年に始まったコロナ禍当初は、出社を控える動きが広がり、オフィス需要は非常に厳しくなりました。顧客企業からの相談もオフィスの縮小やコストダウンに関するものが多かった時期でした。しかしその後、コロナの流行が落ち着きを見せるにつれて、1人当たりの面積を増やして従業員同士が接近しないようにソーシャルディスタンスに配慮したオフィスにしたいというような相談が増えていきました。
今もリモートワークを継続している企業は少なくありませんが、コロナ後の新たな働き方に合わせたオフィスへと移行するために、積極的な投資をする傾向がだんだんと強くなっている印象です。リモートと出社を組み合わせるハイブリッド型のワークスタイルも広がってきていますから、毎日オフィスに行かないとしても、出社する時には快適に働けるスペースがしっかりあることが重要です。
また、人的資本経営の観点から、オフィスへ投資する動きもあります。教育体制や報酬制度の充実など制度面の整備と同様に、従業員が気持ちよく効率的に働くためには、やはり“良いオフィス”が必要です。オフィスは人的資本経営を陰で支えるインフラなのです。「出社したくなる」良いオフィスを実現できれば、従業員のエンゲージメントも高まりますし、人材採用にも好影響が期待できます。
良いオフィスの条件とは?
では、従業員を魅きつけるオフィスとは、どんなオフィスでしょうか? オフィスの設計云々の前に、一番は「利便性の高い立地」「駅から近い」といった条件が重要になります。また、街に対するイメージもあります。たとえば、交通の便という観点からは品川はとても便利ですが、やはり大手町や丸の内を好む人は多い印象です。
次にオフィスの中で考えたいのは、応接室や会議室、ミーティングスペースが十分あるかどうか。1週間も前から応接室や会議室を押さえないといけないようではストレスが溜まります。また、従業員同士の気軽なミーティングスペースも充実させたいところです。何か思いついたとき、サッとメンバーが集まって意見交換できる、というようなオフィスが、ビジネス環境の変化が激しい現代には必要です。
コミュニケーションを取りやすいオフィスの重要性が高まる一方、集中して作業するためには、一人になれるスペースも欲しい。個人用ブースなどを検討してもいいでしょう。
中央日本土地建物グループでは、実験的オフィスとして、保有ビルの9階に「NAKANIWA」というスペースを作りました。
植栽があったり、靴を脱いでくつろげるスペースがあったり、ちょっとしたミーティングのための大型モニターもいくつか設置しています。また、コーヒーのほか、お菓子やレンジで温めて食べる冷凍軽食も提供しています。同社の保有林をイメージした内装や植栽、オリジナルのアロマも導入しており、特に社内の若い人からは非常に人気が高いオフィススペースです。
来客スペースだけをおしゃれに整えて、オフィス内部は窮屈なまま、という会社もありますが、それでは従業員のエンゲージメントも高まりません。社会人1年目の新入社員なら「こんなものか」と疑問に感じないかもしれませんが、他社を訪問するなどしていろいろなオフィスを目にするにつれて、「オフィス環境」が転職を考える理由の一つになってしまうリスクはあります。
オフィスを変える前に考えたいこと
不動産オーナーや仲介会社はもちろん、什器メーカーもおしゃれで機能的なオフィスを提案してくれますが、単にお金をかけておしゃれにすれば良い、というものではありません。
居心地が良くて綺麗でおしゃれ、というのは大切な要素ではあるのですが、やはり最初に考えたいのは「オフィスを変えることで、どんな働き方を実現したいのか?」ということです。
先に述べたように、気軽に社員同士が集まれるミーティングスペースを増やす目的の一つは、「新しいアイデアなどを思いついたときにすぐに検討できるスピード感ある組織」を実現することです。まずはどんな戦略を持って事業を進めていきたいのかを考えた上で、それをオフィスというハードに落とし込んでいくという考え方が望ましいと思っています。
不動産の有効活用について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。