小口投資家も購入しやすい「不動産ST」とは?

菊嶋勇晴
ケネディクス株式会社 広報・サステナビリティ推進部長
1997年慶應義塾大学卒業後NTTに入社。NTT東日本にて公衆無線LAN商用化プロジェクトに参画後、2006年ケネディクスグループに入社しJ-REITの資産運用業務に従事。2014年ヘルスケア専業J-REITの立ち上げに参画。2018年にはビットリアルティ株式会社代表取締役に就任し、クラウドファンディングによる個人向け不動産投資商品の提供に従事。2024年より現職。


2021年に誕生した不動産ST(セキュリティ・トークン)は、個人や中小企業など、小口の投資家にとって購入しやすい不動産投資商品です。ケネディクスの広報・サステナビリティ推進部長、菊嶋勇晴さんにお話を伺いました。

2021年にスタートした新商品

不動産投資商品で、個人や中小企業など小口の投資家でも購入できるものとしてはJ-REIT(不動産投資信託)が有名ですが、2021年に第1号が誕生した不動産ST(セキュリティ・トークン)にも注目が集まっています。

セキュリティ・トークン(ST)とは耳慣れない言葉ですが、ブロックチェーンに代表されるデジタル技術を活用して発行・管理される金融商品(有価証券)を指します。このうち、不動産関連資産を裏付けとして発行されるものが不動産STで、デジタル証券と呼ばれることもあります。そして、このSTを投資者に対して発行(オファリング)し、資金調達する仕組みを、不動産STO(セキュリティ・トークン・オファリング)と呼びます。

STにはいくつかの革新性があります。まずはデジタル技術による証券発行・管理ができることで、効率化されており、投資単位の小口化も容易です。STを取り扱っている証券会社に口座を持っていれば株や債券と同じように簡単に売買できますし、金融商品取引法に基づいた投資家保護もしっかりしています。特定口座を使えば、原則として税務申告は不要です。

ブロックチェーンといえば、ビットコインが有名です。ご存じのように、ビットコインの値動きはかなり荒いので、「投機的で不安定な商品ではないか?」と懸念する方もいるかもしれません。しかし、裏付け資産のない暗号資産等とは異なり、不動産STは明確な不動産資産を裏付けとして発行されています。

また、株式市場の影響を受けて値段が時として大きく上下するJ-REITと比べると、基本的には不動産鑑定価格に準じた価格となるため、緩やかな値動きが期待できます。

このように、不動産STはデジタル技術による効率性と金融商品取引法下での投資家保護による信頼性を組み合わせた仕組みで、個人投資家の方々でも購入しやすい不動産投資商品といえるでしょう。

どんな商品があるのか?

2021年8月、われわれが発行した商品が、日本で初めての不動産STです。これは東京都渋谷区に所在する築浅の賃貸マンションを原資産としたものです。J-REITは各投資法人が多数の不動産を取得・運営する大規模ポートフォリオ運用となっていますが、不動産STの場合は単一または少数の不動産を証券化している商品が多いことが特徴です。

ほかにも、さまざまな商品を世に出してきました。いずれも証券会社を通じて購入することができる商品です。

これまでに発行されてきた不動産STは、足元で好調な利回りが期待できるホテル(旅館)や住宅が多く、償還期間は5年から7年程度のものが中心ですが、10年を超える長期の商品も出てきています。非上場商品なので、途中で換金したいときには証券会社の店頭取引を通じて売却する形になります。

今後は大きく成長していく見通し

不動産STの市場規模予測

不動産STは誕生して2年で1,330億円の市場になりました。3年目の2024年は2,400億円の市場規模を予想していましたが、足元のST発行状況を鑑みると予想を大きく上回りそうです。今後も順調に成長していく見通しで、われわれは2030年には約2.5兆円の市場になると予想しています。

2023年12月、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)がSTの売買を行う私設取引システム(PTS)の運用を開始しており、そこで売買できるSTも出てきています。流動性の面では取引所で活発に取引されるJ-REITにはかないませんが、こうしたセカンダリーマーケットの登場に期待が寄せられています。

単一の不動産が裏付け資産の不動産STであれば、投資対象が明確で、不動産業界に不慣れな方でも調べたり学んだりしやすいという点でも、小口の投資家の方々に向いた商品設計です。投資商品でありリスクは当然ありますから、しっかり調べたうえで購入を検討していただきたいと思います。

不動産の有効活用及び法人運用の余資計算について、わかりやすく資料にまとめましたのでこちらもぜひご活用ください。

上記記事は、本文中に特別な断りがない限り、2024年6月28日時点の内容となります。
上記記事は、将来的に更新される可能性がございます。
記事に関するお問い合わせは、お手数ですがメールにてご連絡をお願いいたします。